カレッジマネジメント204号
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52近年、「アジア高等教育圏」という表現が登場した。ヨーロッパに「エラスムス計画」という多国間の学生移動プログラムが登場し、欧州高等教育圏が形成されるようになった80年代、アジアはまだ各国が国家の枠組みの中で人材育成を考える時代にあった。当時の留学の主流は、国費留学に代表されるように各国政府の自国人材の育成政策として実施され、私費留学も自国での高等教育が期待できないという消極的な理由によるものが中心であった。それが今日では、アジアからの留学生はOECD諸国の大学院レベルでは53%を占めるまでになり、引き続き欧米英語圏への留学は中心ではあるものの、今では非英語圏や、アジア域内の留学も活発化している。かつて送り出し側であったアジアは、今や一部の国が受け入れ側にもなり、国際留学生移動のハブが誕生している。「アジア高等教育圏」の誕生である。この背景には、特に1990年代以降のアジアにおいて、一定の経済成長のもとに人々の教育への需要が高まり、私費留学を可能にする中間層が増加したことが挙げられる。同時に、留学の需要に対応する多様なプログラムが、教育機関はもとより、各国政府・地域機構によって作られるようになった。折しも国際化やグローバル化が教育にも影響を与え、教育プログラムも従来の交換プログラムに留まらず、ツイニングプログラムや二重学位プログラム、サンドイッチプログラムや海外分校におけるプログラム等、国境を超えるトランスナショナルプログラムが増加した。アジア各国がそれぞれ国際教育交流の拠点化を目指し、人材獲得競争も相まって戦略的に留学生政策を展開するようになり、教育機関・プログラム・学生・教職員のモビリティが活発化したのもこの動きと重なる※1。「アジア高等教育圏」の多層的枠組みこうした国際教育の動きがさらに「アジア高等教育圏」へと発展しつつあるのは、今やアジアが留学先地域として一定の位置付けを得るようになったこととともに、EUと同様に各国政府が協力し、あるいは国別の枠組みを超えた国際機関が、地域としての教育ネットワークを構築し、それが学生や教職員のモビリティを促進するようになったからであリクルート カレッジマネジメント204 / May - Jun. 2017アジア高等教育圏のダイナミクス杉村美紀上智大学 グローバル化推進担当副学長 総合人間科学部教育学科教授Copyright(C) T-worldatlas All Rights Reserved● 新連載 ●図1 アジアに拡がる高等教育ネットワーク1

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