カレッジマネジメント204号
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55リクルート カレッジマネジメント204 / May - Jun. 2017た各国はそれぞれの国家統合の課題のもとに、特に初等・中等教育においては、引き続き国民教育を基軸とした政策を堅持している。日中韓三カ国政府が、一方で教科書問題や領土問題などの政治的課題を引きずりながら、三カ国間の学生モビリティプログラムである「キャンパス・アジア」を運営しているのは、国家間の政策の差異に高等教育圏がどのように対応するかということの典型である。また、アセアンが地域政策の方向性として、地域統合という用語を表面上は用いながらも、同時に「多様性の尊重」を掲げ「調和化(harmonization)」を重視するのもそのためである。そこでは常に、各国政府と高等教育圏全体の政策動向を調整する姿勢が見られ、単一の地域コミュニティを創るというよりは、モザイク状に相互のバランスをとった「緩やかな共同体」が模索されている。第2に、南アジア地域や東南アジアが相互に牽制し合う地域主義の動き、あるいは東南アジアがASEAN+3として展開しようとしている地域拡大の動きがある。こうしたアジア域内の相互関係に加え、2015年から関係構築が始まったEUシェアのように地域間を考慮した動きなど、地域化がもたらす新たなパワーバランスの問題がある。こうした動きのなかで、アジア高等教育圏の方向性を決める鍵となって今後ますます重要になってくるのはASEANの動向であろう。ASEAN+3、ASEAN+8、さらにEUシェアと戦略を展開しているアセアンの動きは、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)と並行して議論されてきた東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の動きと重なる。折しも、アメリカのトランプ政権によるTPP離脱という状況のなかでRCEPの動向に注目が集まっているが、国際高等教育の展開においても、国際協調のもとでの人的交流の重要性をどのようなかたちで実現するかが焦点となろう。そこではアセアンが主張するように人的交流を「人と人との連結性(people to people connectivity)」と捉える一方、昨今の移民問題に象徴されるように人の国際移動が社会の文化変容や文化摩擦を引き起こすことも考慮される必要がある。第3に、今日、高等教育全体に求められるようになっているアウトカム、アウトプットを高等教育圏としてどのように見定めていくのかという問題がある。高等教育の国際化とそれに伴う質保証の動きが活発化し、今日ではネットワークの拡充や量的拡大だけを是とするのではなく、そのプログラムを通じてどのような人材を育てるか、そのためにはどのような内容を、どのような教え方によって取り上げるのがよいのか、さらにはプログラムの意義をどのように把握するのかという教育評価が問題になっている。このことは、国境を超えた協働を特徴とする高等教育圏においては、地域全体で求められる人材像や社会システムを視野に入れた目標設定が求められることを意味し、個々のメンバー国が定める目標との調整も課題となる。顧みればこうした国民国家の枠組みを超えた高等教育圏の枠組みは、共に学び合う人々のモビリティを高め、相互理解と信頼関係を醸成することにより、社会の恒久平和を目指そうとしている点で、17世紀に提唱された国際主義を源流とする国際教育の理念に共通するものがある。新自由主義のもとで効率性や合理性が重視され、自国中心主義がにわかに台頭するようになっている今日にあって、高等教育圏が紡ぐ協働の枠組みは、知の創造と次世代の人材育成を担う学術的な教育研究活動の真髄としてその重要性が際立つ。それは人間の尊厳を守るため、国家間や民族間、文化間の偏狭な対立を超えてアカデミアが担う社会的責務でもある。※1アジアの高等教育の国際化に関する1990年代から200年代半ばにいたる動向については、本連載の前に2009年~2011年に本誌にて取り上げた連載企画『ダイナミック・アジア』に詳しい。図2 高等教育圏の形成と高等教育の重層的な役割(出典:筆者作成)▶ 国家発展戦略と 人材育成▶ 競争原理に基づく 目標設定▶ 国境を超える課題解決と それを担う人材の育成▶ 協働と複眼的視野を重視▶ 地域主義高等教育の国際化国際高等教育の展開高等教育圏の形成▶ 域内の交流▶ 地域間の交流▶ 各地域や教育機関の  リソースを有効活用▶ 加盟国・地域のローカ ルな課題との調整

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