カレッジマネジメント204号
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66大学改革を進めるにあたり、人材育成ニーズを理解したり、より有効なマネジメント手法を検討したりする上で、企業経営の実情を正しく認識することは重要である。一方で、その企業も業種や規模などにより実態は様々である。また、グローバルに事業を展開する大企業であっても、日本企業の経営と欧米企業の経営では、経営層の人的構成、人事・育成、本社と海外現地法人の関係をはじめとして異なる点が多い。筆者は2015、16年度の2年にわたり、一般社団法人企業研究会主催の「グローバル経営管理研究・実践フォーラム」の企画・運営を通して、日本企業と海外企業のグローバル経営の事例に接してきた。世界的にその名が知られている欧米企業の経営の特徴を一言で述べるならば、企業価値向上を最優先に、国籍を問わず能力主義で人材を登用するとともに、グローバルなレベルで事業と機能の最適化を追求しているという点である。それに対して、日本企業の多くは、生え抜きの日本人中心の経営層が、海外事業の拡大に対応して、人事を含む経営の仕組みや運用を緩やかに変化させることで、経営のグローバル化を進めようとしている。個別に見ていくと会社ごとに差があるものの、総じてこのような傾向が強い。産業界を中心に、グローバル人材の育成や大学自体のグローバル化を求める声は強い。その一方で、多くの日本企業が、経営のグローバル化に向けて試行錯誤を繰り返していることも事実である。このような認識に基づき、本稿では欧米のグローバル企業の経営の実際を紹介し、そこから大学が何を学ぶべきか考えてみたい。取り上げるのは3M社である。同社は百年を超える歴史を有し、ダウ工業株30種の一つである米国を代表する優良企業である。サイエンスを活かして5万5000にものぼる多様な製品・サービスを生み出してきたその経営は、広く世界から注目され、数々の著書や論文でも取り上げられてきた。以下の内容は、前述のフォーラムにおいて、3Mアジア担当人事ディレクター森田 準氏が2017年3月7日に行った講演を基に、同社の公開資料及び関連書籍なども参考にしつつ、まとめたものである。サイエンスを基礎にした差別化で高い収益力3Mは、1902年に、研磨剤の材料となる鉱玉を採掘することを目的に米国ミネソタ州に設立された。かつて正大学を強くする「大学経営改革」3Mの事例を基にグローバル企業の経営に学ぶ吉武博通 公立大学法人 首都大学東京 理事リクルート カレッジマネジメント204 / May - Jun. 201770経営のグローバル化に向けて試行錯誤の日本企業3M アジア担当人事ディレクター森田 準氏
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