カレッジマネジメント204号
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67式社名がMinnesota Mining & Manufacturing Co.であったことがそれを表している。しかし、採掘した鉱玉が質の良いものでなかったこともあり、サンドペーパーの製造・販売に事業転換し、幾多の困難を乗り越えて世界初の耐水サンドペーパーを大ヒットさせる。以来、研磨剤技術、接着・接合技術、コーティング技術など、技術蓄積を進め、売上高303億ドル(2015年)、社員数約9万人を誇る世界的企業に成長する。現在は、インダストリアル、エレクトロニクス&エネルギー、セーフティ&グラフィックス、コンシューマー、ヘルスケアの5つの事業部門を有し、それらの下に25の事業部を置く。インダストリアルでは作業現場を支えるテープ・接着剤や研磨剤、エレクトロニクス&エネルギーでは液晶ディスプレー用輝度上昇フィルム、セーフティ&グラフィックスでは日本国内でも9割のシェアを誇る道路標識用反射シート、コンシューマーではポストイットやスコッチテープなどがよく知られている。収益力は極めて高く、粗利率は50%近い水準で推移しており、20%前後にとどまる日本の製造業平均をはるかに上回る。また売上高営業利益率も20%台前半を維持しており、トヨタ自動車の10%(2016年3月期)の2倍を超える水準にある。一つひとつの製品・サービスの売上規模は総じて小さく、ニッチ事業の集合体といえるが、それぞれに差別化を追求することで、コモディティ化による価格競争が回避できている点にその強さがある。テクノロジープラットフォームと協働の文化高い収益力の基盤となる強みとして、同社は、テクノロジー、マニュファクチャリング、グローバル・ケーパビリティーズ、ブランドの4つの要素を挙げている。このうちのテクノロジーについては、売上高の約6%に相当する額(直近5年間の合計で85 億ドル)を研究・開発に投入、うち15%を研究、85%を開発にあてている。3Mの売上高の3分の1は、過去5年以内に開発された製品であるが、この製品開発力を支えているのが「46のテクノロジープラットフォーム」である。これらの基盤技術は、どの事業部でもどの現地法人でも自由にアクセスでき、顧客のために活用することができる。キーとなる一つのコアテクノロジーを様々な用途の製品に応用することもあるし、複数のテクノロジーを組み合わせて新たな製品を生み出すこともある。世界36カ国にある54のカスタマーテクニカルセンターや研究所に入ると、46のテクノロジープラットフォームと応用製品が展示されており、営業やマーケティングも加わり、顧客が抱える問題を一緒に解決することで新たな製品・サービスを生み出している。年間10万人を超える顧客がこれらの施設を訪れるという。また、研究者やエンジニアが交流し合う「テクニカルフォーラム」が組織を超えた協働を促進する役割を果たしている。事業所ごとに年に2回、多いところでは3、4回、広いスペースでポスターセッションを行い、自分が取り組んでいるプロジェクトや開発した技術を披露したり、困っている問題を投げかけたりする。全社で年に1200回以上開催され、技術者のみならず営業やマーケティングも参加する。1950年代に草の根運動として始まり、定着したという。もう一つ、3Mを象徴するのが「15%カルチャー」である。業務時間のうち15%を新たな技術や市場を探索するために自由に使ってよいというものであり、15%ルールと呼ばれることもあるが、明文化した規則に基づくものでも、厳密に時間を計るものでもない。この15%カルチャーから多様な製品が生まれている。ちなみに、ポストイットは、聖歌集に挟んでおいたしおりが舞い落ちるという出来事に遭遇した研究者の着想と、強力な接着剤の開発を目指していた研究者の失敗作であるすぐにはがれる接着剤という技術が結びついた結果生まれた商品である。3Mは、テクノロジープラットフォームと、ニーズに対する洞察力や分かち合い協働し合う文化が相俟って新たな製品やソリューションが生まれると考える。社員の主体性・自主性の尊重と組織・機能・専門を超えた草の根的な交流が、企業文化として定着していることで、このような相互作用が促進されるのであろう。リクルート カレッジマネジメント204 / May - Jun. 2017

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