カレッジマネジメント205号
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有本章教授の名前を知らないものはおるまい。長年広島大学の教育社会学講座の主任教授として、高等教育分野の研究を国際的にリードしてきた中心人物である。今回の600頁に達する膨大な新著を読むと、まさに有本教授の研究歴の集大成の反映という感を抱いた。もともと広島大学にはこの分野の研究をリードする基盤が用意されていた。その上に研究費の重点配分方式が導入されたことによって、広島大学の地位は、国内的だけでなく、国際的にも高まった。有本教授は各国の多数の研究者を率いた研究センターのリーダーとして、中心的な役割を演じてきた。単に国内の研究者ばかりでなく、国際的な規模で各国の研究者を率いることで、広島大学を世界的な研究センターの中心に成長させることに成功した。高等教育分野にはいくつかの領域があるが、なかでも大学教授職の国際的な研究がある。有本教授の率いる研究ティームは、国の内外を超えた世界的な比較調査を実施し、その研究事業によって国際的な評価を獲得した。大学の大衆化の中で大学教授職もまた大衆化した。これは2~3の国で起きたのではなく、地球上、様々な国で大学教授職の大衆化が発生した。およそ100年前、いや50年前と比較してみても、大学教授職は大きく変貌した。各国でどのような変貌を発生したのか、その実態に即して明らかにすることが各国で大きな課題となった。本書に即していえば、第3部「日本の大学教授職」がその部分に当たる。有本教授は国籍を超えた研究ティームを編成し、実地調査の企画・実施、その取りまとめに当たった。それだけでなくさらには、カーネギー財団からの依頼を受けて、財団が企画する国際比較研究に参画し、日本側の責任者として務めを果たした。有本教授の仕事ぶりには一つのスタイルがある。莫大な予算を使っての共同研究は一人では無理で、どうしても研究ティームを組むことになる。結果を報告する時には、これらの共同研究者に分担部分を割り振り、報告書は責任部分を明確にした共同執筆となる。なかには共同研究の成果を、単独図書の中にそのまま組み込んでしまう研究者がみられるが、有本教授は丹念に各自に分担部分を明らかにしながら、共著として発表してきた。これまでの有本教授の著書は多くがそういうスタイルをとってきた。しかし今回のこの新著は全て有本教授の単独執筆になっている。これを読み進むと、有本教授個人の学習過程が目の前に浮かんで来る。本書にはこれまでの長期間にわたる真摯な学習過程が刻み込まれているように思える。これまで高等教育分野で登場した主要な研究のほとんどが取り上げられ、そのポイントについて有本教授独自の見解が付け加えられ収録されている点である。この記述を読み進めると、時々の主要な研究成果を、いかに丹念に吟味し、次の研究に生かしてきたかが分かる。もともと広島大学の出身者は丹念に先行研究をレビュウし、その上に立って新たな研究を積み重ねてきたが、その過程を生のまま見る思いがする。いかに先行研究を重視し、その上に立って新たな研究を積み重ねようとしているかが如実に理解できる。われわれ外部の者は、これほど国籍の異なる大規模な国際的な研究者集団を取りまとめるには、さぞかし言葉にならない苦労があったことだろうと想像するばかりだった。しかし今回のこの著書を読み進めるうちに、この几帳面さは、にわか仕立てのものでなく、また付焼刃でもなく、ほとんど身体化された資質の成果であることを発見する思いがした。有本 章 著『大学教育再生とは何か─大学教授職の日米比較』(2016年 玉川大学出版部)大学教授職の変貌とその実態を分析丹念に吟味した成果がもたらす独自の見解

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