カレッジマネジメント205号
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32リクルート カレッジマネジメント205 / Jul. - Aug. 2017の結果、画餅に帰す部分がないとは言えないのだが、東洋大学の場合、それ以前に実施していた事業や計画をSGUの構想調書に統合し、その結果の採択であるのだという。SGUありきで組み立てられた計画ではないため、採択後はもともとの計画を構想調書に従って定めたマイルストーンを丁寧に実施していくというプロセスを踏むことができるのである。新学部の設置はその過程の1つであり、2019年の発足を計画していたグローバル・イノベーション学部を、前倒しで国際学部グローバル・イノベーション学科として開設している。2013年度から実施していた海外インターンシップ・ボランティアプログラムは、さらに拡充してSGUに組み入れられており、UMAP(アジア太平洋大学交流機構)の国際事務局を誘致するという計画も、予定通り2016年1月から学内に事務局を置いている。もともとの多岐にわたる国際化計画を、SGUが後押しをして実現しているという形になっていると言ってよいだろう。ガバナンス体制の効果このように着々と計画を進めることができるためには、やはり学内のガバナンス体制が大きくものを言う。2014年の学校教育法改正は、東洋大学の場合も、教学改革に弾みをつけたのではないだろうか。これに関して、竹村学長は、「確かに、学校教育法の改正が学内改革を推進しやすくした側面はありますが、それ以上に多くの教員が現状を認識し、改革に協力的になっていることが大きなドライブになっています。昔とは大きく変わりました」と、ボトムアップ効果を強調される。「例えばSGUの取り組みにおいて、外国語による授業の比率を約15%にすることをゴールとしていますが、昨年度の段階で既に約8%に到達しました。これは先生方のご協力の賜物です」と言われる。この言葉がまやかしでないことは、採択後の計画の順調な進展が証左となろう。他方で、「本学の場合、法人の理事長と教学の学長とは別ですが、法人と教学とでもめるようなことはなく、これまでタッグを組んできましたし、理事長の先見の明に助けられてきました」と言われる。図表2は、法人組織である理事会の構成を示したものだが、理事には、教職員以外に、卒業生や学識経験者を多く含み、3者をバランスよく配置する方針がとられており、ステークホルダーの意見の積極的な導入を図っているという。こうすることにより、学内外の様々なニーズを反映させ、時代の先を読んだ大学運営が可能になる。さらに理事会では、教育界を超えた広い視野から、将来の日本及び国際社会に資する人材の育成という高い観点で議論が進むそうである。現状認識と将来に対する鋭敏な感応性の源泉は、こうしたところにあるのだろう。迅速な改革という点では、ある程度のトップダウンが必要であるが、それが進捗するためには、どうしてもボトムアップ的な総意が形成されることが必要である。法人と教学が分離していてもタッグを組める状況にあること、改革の方向性に対する教員の合意があること、これが強みとなっている。建学のミッションと教育改革東洋大学は建学のミッションとして、「諸学の基礎は哲学にあり」と共に、「独立自活」「知徳兼全」を掲げている。これらは、創立者の井上円了が掲げた理念である。興味深いのは、これらのミッションをお題目とはせずに、教育改革の推進に用いていることである。竹村学長は、「東洋大学の運営を、世界標準とすることを目指しています。また、学位の国際通用性を高めねばなりませんが、その際に最も大事なことは、教育の質を転換し、かつ向上させることです。実は、それはまさに、建学のミッションをそのまま教育に活かすことなのです」と話される。即ち、「諸学の基礎は哲学にあり」とは、物事の本質に迫って深く考えることであり、「独立自活」とは自ら主体的に学修することであり、「知徳兼全」とは、学力と人間力を理事長学長・理事常務理事常任理事理事113116図表2 理事会の概観特徴 ・理事は卒業生、教職員、学識経験者でバランスよく構成 →学内外の様々なニーズを反映・産業界リーダー等、教育界を超えた有識者が理事会を牽引 →将来の日本及び国際社会に資する人材育成という視点が強い※人数は2017年4月取材時点

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