カレッジマネジメント205号
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37リクルート カレッジマネジメント205 / Jul. - Aug. 2017(朴澤泰男 国立教育政策研究所高等教育研究部総括研究官)特に、大学の定員割れが少なく、進学に対する超過需要が存在した時代に顕著だったが、現在でも、大都市圏の大学に特に見られる経営行動だろう。ただし、学部・学科の新増設や入学定員増に制限がある場合は、事情が異なる。規模を拡大したくとも、容易にはできない。1967年に開学した京都橘大学が、先述のように1970年代後半に一つの危機を迎えたのも、70年代半ばから新増設や定員増が抑制され、大学進学率も停滞期に入ったことと無関係ではないと見られる。だとすると開学時期が似ている大学同士を、同じ時代、同様の経営環境に直面してきた「同じグループ」に一括することも許されよう。実際、京都橘大学と対比されることのある武蔵野大学が、4年制大学を設置したのも1960年代半ばであった。両大学とも金子元久氏による私立大学分類では「第2世代大学」、つまり日本の高等教育の大拡張期(1960~74年)に4年制大学として開学した大学にあたる※2。第2世代大学は、学生数の規模や、学部・学科の新設・改組の動向で見て、他の時期に開学した大学以上に、発展の方向性が分化しているとされる。両大学は、その中でも規模を大きく拡大させ、かつ積極的に学部・学科の新設・改組に取り組んできた典型例だった。いずれも、もともと女子大学で共学化したこと、1980年代半ば頃の学生数が1200人ほどで拡大の余地があったこと、かつて臨時定員を積極的に導入したこと、経営上の強い危機感を持つ時期を経験したことも共通している※3。実は、近年の18歳人口減少の影響を強く受けているのも第2世代大学である。1960~74年を開学時期とする全大学の学生数を合計で見ると、2000年代に、55万人ほどから48万人ほどへと大幅に減少した※4。その中で、京都橘大学は武蔵野大学とともに、大きく成功した事例と目される。京都山科の地と共にある総合大学として細川学長によれば、京都橘大学は、昔も今も京都山科のワンキャンパスの大学であり、地元の京都、滋賀、さらには大阪北部を中心とする学生を育てて、地元へ帰すことが重要だという自覚が強くなったという。医療や教育だけでなく企業への就職も含め、地域に送り返すということだ。実際、通信教育課程を除く学部学生の出身県は滋賀が最も多く、31.1%を占めている。次が京都の24.6%で、近畿2府4県では全体の77.8%にあたる。文学部単科の時代は、全国から学生が集まったが、現在は地元の学生が中心となった。同大学は、もともと地元の山科区との関係が密接だが、近年は滋賀県内の自治体との連携にも力を入れている。JRの山科駅から草津駅まで、20分もあれば着けるが、その草津市には子育て支援の充実のため、児童教育学科の学生が通っているし、京都橘学園は認定こども園も2018年4月に開設予定。偶然のことだが、創立者の中森孟夫の出身地も滋賀である。教育の面での地域連携の取り組みとしては、他に、地域課題研究という科目がある。全学部・学科の1回生の必修で、京都山科を中心とした地域課題について探究を行う。総合大学化によって分野ごとの遠心力も働く中、この科目は、いずれ異なる学部・学科の学生との交流拡大の機会となることも期待されている。その意味では、サークル活動等でも、自らと異なる就職先等を目指す学生と交流する場となって、総合大学の良さが活かせるようにすることが今後の課題の1つだという。細川学長の考えでは、京都橘大学の役割は学生が人間的な成長も遂げつつ、きちんと就職もして、地域社会の中でやりがい・生きがいを持って働けるように育成することだという。考えてみれば、115年前に始めた実学教育、すなわち手に職をつけて、経済的にも、精神的にも自立できるようにするという伝統は、現在も医療系だけでなく、経営や国際英語の分野にも生きているように見える。それぞれの学部・学科で学んでいる学生にとって、「京都橘大学で学ぶこと」に共通するコアとなる要素を形成し、総合大学へと変貌を遂げたことのメリットが、さらに実感されるようになる時、大学の次なる発展が約束されていると思われた。今後の動向からますます目が離せない。※1杉本和弘「京都橘大学 意思決定スピードが改革成功を生む」本誌No.179、2013年3-4月。※2金子元久「高等教育大衆化の担い手」天野郁夫・吉本圭一編『学習社会におけるマス高等教育の構造と機能に関する研究』放送教育開発センター、1996年。※3両角亜希子『私立大学の経営と拡大・再編――1980年代後半以降の動態』東信堂、2010年。※4濱中義隆「私立大学の類型と学生規模の変容」『IDE現代の高等教育』No.584、2016年10月。第2世代大学の多くは人文社会系や理工系など、伝統的分野で構成される傾向が強い。すなわち学部構成が1959年以前に開学した「第1世代大学」に似ているために、進学需要が停滞すると、競合して不利が顕在化すると考えられるという。特集 学部・学科トレンド2017

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