カレッジマネジメント205号
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38晩春から初夏へと移り変わろうとする暖かな頃、磁器を思わせる乳白色の雲、抜けるような青さの空、新緑の山々を背景に、新入生を一生懸命、部活動やサークル活動に勧誘する学生であふれかえったキャンパスを想像してほしい。この世代の若者に特有の活気でみなぎるキャンパスの姿。これを目の当たりにできるのは、きっと大学に関わる者がこの季節に享受できる特権であろう。ところで、この光景は、今回取りあげる九州産業大学を訪ねた際に実際に目の当たりにしたものだが、この光景の裏には大変な苦労を伴う改革と、それを立て続けに成し遂げ、また、尽力した人達の姿がある。キャンパスにあふれる学生の活気の裏には、果たして何があったのか。そのストーリーを聞くために、九州産業大学松香台キャンパスに、山本盤男学長、藤原敦大学改革推進室長を訪ねた。九州産業大学の置かれた状況九州産業大学は、福岡県福岡市にある、9学部21学科、5研究科を擁する総合大学である(2017年7月現在)。1960年に商学部の単科大学としてスタートした九州産業大学は、本誌刊行現在で、経済学部、商学部(第一部、第二部)、経営学部、国際文化学部といった文系学部、理工学部、生命科学部、建築都市工学部といった理系学部、そして、芸術学部を抱えるまでに至っている。「産学一如」を建学の理想に掲げ、その時々で上述の学部を設置しながら、50年以上の長きにわたって福岡及び近隣県の子弟に教育を提供してきた。産学一如とは、「産業と大学は車の両輪のように一体となって時々の社会のニーズを満たすべきである」(九州産業大学Webサイト『建学の理想と理念』より)との意だが、九州産業大学の歴史は、まさにここに謳われる通りと言ってよいだろう。実学志向、実践力を追求する九州産業大学だが、その卒業生達への評価は“現場で頑張っている”というものであり、「現場に強い九産大生」約12万人(山本学長)を輩出してきた。しかしながら、2010年の年末に学長職に就いた山本学長には、九州産業大学の状況に対して危機感があった。低迷していた志願者数、就職(決定)率の低下…。幾つかの学部学科に至っては、定員割れも起きていた。こうした各指標は、地元の高校や企業から九州産業大学に投げ掛けられるまなざしを暗に示していた。学外のみならず、学内においても、決して良いことばかりではない状況にあることが窺われていた。高い除籍・退学率、文系学部に偏る学生数、提供する教育の違いの見えにくさ、女子学生の少なさ…。“2018年問題”が言われ出した当時、山本学長が抱いていた危機感は、「このままではこの大学は潰れる」という厳しいものであった。そして、こうした状況は、2012年に行ったステークホルダーを対象とした調査結果からも推察された。危機感は、決して杞憂ではなかったのである。リクルート カレッジマネジメント205 / Jul. - Aug. 2017社会を見据えた教育の実現に向けて原点に立ち返る山本盤男 学長九州産業大学C A S E3

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