カレッジマネジメント205号
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52リクルート カレッジマネジメント205 / Jul. - Aug. 2017いと感じている人もいるでしょう」と磯部学長は大学教員の心理を読み解く。「でもだからといって拒絶することはなく、制度として実施できているのは、学生が大事なら当たり前、という意識があるからだと思います」。教員評価も、学生の授業評価を含む教育成果、研究成果、社会貢献、大学運営に対する貢献という4項目からなり、全ての項目が、最終的には年俸や昇格にもつながるシステムだ。論文数など研究成果に偏りがちな一般的な大学とは異なる。「なかなか普通の大学では難しいことだと思います。こういうこともスムーズにできているのは、たぶん今までの文化というか、積み重ねでしょう。前の第3代学長の功績に支えられているところもあるのかもしれません」。第4代学長としてさらに積み重ねをしていくうえで磯部学長が心がけるのは「話がころころ変わってしまうのでは誰も信用しないので、よく考えて、同じことを言い続けること」と言う。またそこには、「Face to Faceで全学が接することができる規模」を活かす意識がある。「私はマンモス大学にいたこともありますが、学長がいて学部があって学科があって各先生と、間接的に伝わっていくと、変なふうに伝わることも多いのです。しかし、この規模だと直接対話ができる。私は先生の顔と名前が全て分かるし、一人ひとりと話して、内容と意図が伝われば理解してもらえる土壌があります。ただその前提には、Face to Faceで質問されたときにきちんと答えられる準備が必要です。それをよく考えるということが大事だと思います」。このような高知工科大学の風土に、公立化はどのような影響をもたらしているのだろうか。磯部学長はまず、私学の効率性が定着していることを指摘する。「もともと公設民営という私立大学の範疇で発足したので、大学運営を効率的にする文化があります。例えば意思決定は初めから、教授全員の教授会ではなく、いわゆる代議員制です。4学群の学群長プラス学長、副学長、特別補佐等10数人の『教育研究審議会』ですので、非常に早く、思い切った意思決定ができます」。一方で公立化には、財務経営の自由度が高まるメリットがあったと言う。「公立大学法人は、経営的にある程度安定し、設置者からもある程度独立していますから、新しくやれることが増えたと思います」。高知にある公立大学が目指す国際化今後の施策としては、「世界一流の人材の輩出」という基本の方向性に基づく大学院の強化が挙げられる。修士への進学率は約30%(工学系)だが、この数字を上げるとともに、教育内容も充実させていきたいと言う。「それを実現するためには、先生一人ひとりが研究力を持つことが大事ですから、そこは並行してやっていきたいと思っていて、学長裁量経費という科目で研究が進んでいる先生をサポートする体制を作っています」。もう一つの大きなテーマは国際化だ。博士課程を中心とした留学生教育の質的向上もあるが、それとは少し違った文脈の国際化が視野にある。「例えば、日本国内の製造業に就職したとしても、ベトナムに造った工場に来月から行って下さいというようなことを言われる可能性が常にある。工学にせよ、経営・マネジメントにせよ、今後どうしても国際化は避けられない状況です」。こうした想定のもと、国際性を培うプログラムや、短期海外研修や留学時の旅費の助成といった支援策を充実させていくと言う。一例を挙げれば、夏休みの約10日間、連携協定を結ぶ海外大学から招いた学生10数名と一緒に活動する、「国際サマースクール」がある。教室での勉強に加えて、この時期に開かれる高知の「よさこい祭」も一緒に経験し、国際交流とともに改めて日本の文化への理解も深める。さらに磯部学長は「冒頭にもお話ししたように、高知県は製造業がやや弱い。それを強くしていくのも工学系の大学として一つのミッションだと思います」と言う。高知県での起業を増やそうと、大学院に起業マネジメントコースを設置。当面は社会人向けだが、ゆくゆくは学生起業家も育てていきたいと言う。IT産業、特にソフトウエアなら地域によるハンディキャップはほとんどない。磯部学長はそこに可能性を見出しつつ、「その代わり中国やインドと戦わなければいけない」とも指摘する。経済にも技術にも国境がない時代、「日本にない大学」という理念が改めて大きな意味を持つと言えそうだ。(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)

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