カレッジマネジメント205号
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55育改革を進めているのか最新の動向を踏まえて考察する。インドを中心とする国境を超えた知的・人的ネットワークインドは中国に次ぐ世界第2位の留学生送り出し大国として、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド等の英語圏の先進諸国を中心とする国々に36万人の留学生を送り出している。世界のインド人留学生の数は増加傾向にあるが、一時懸念されたような頭脳流出だけでなく、留学経験者が本国の発展に貢献する頭脳回帰や頭脳還流も見られる。国内への受け入れは国外への送り出しに対して小規模ではあるが、毎年3万人の学生が、南アジア、アフリカ、中東を中心とする国々から、政府の外郭団体であるインド文化関係カウンシル等の奨学金制度を利用して来印している。イギリス植民地時代の影響もあって英語が準公用語とされるインドでは、高等教育レベルの英語教育の質が高く、非英語圏から第二言語としての英語(ESL)教育プログラムを受けに短期留学する学生もいる。これらの中には韓国や日本からの留学生も見られる。外国人学生にとっては、欧米の英語圏と比較して授業料が安い点や、インドの持つ多様な文化等が、インドを留学先として選ぶ動機となっている。インド政府は、仏教発祥の地ブッダガヤにあった世界最古の大学の1つである「ナーランダ大学」の再興や、南アジア地域協力連合(SAARC)がデリーに設置した南アジア大学の運営等、地域間の学術交流連携を促す高等教育の国際化にも力を入れている。ナーランダ大学再興構想は、宗教的マイノリティーを支持基盤とする国民会議派政権時代に、ASEAN+6の参加する東アジアサミット(インドは+6の一国として参加)で提案された。そして、インド、中国、日本、シンガポール、タイの有識者からなる助言グループ(後の大学運営委員会)のイニシアチブのもと、ナーランダ大学が設立された。また、南アジア大学は、SAARC合意のもとインドのイニシアチブで設置され、これまで地域統合の役割を十分に果たしてこなかったSAARCの画期的取り組みとして評価された。ナーランダ大学は、ヒンドゥー至上主義政党とみなされるインド人民党への政権交代後、同政権による「大学自治を否定する政治的介入」を理由にアマーティア・セン学長やジョージ・ヨー副学長(元・シンガポール外相)が辞任したり、南アジア大学においては、パキスタンとの政治的緊張関係が教員の待遇等日常の大学業務に影響を与えたりといったように、問題点も指摘されている。一方、学生の間では、こうした国家間や政党間の宗教的・政治的対立を超えて文化理解が進んでいるのもまた事実である。地政学的にも文化的にも近い関係にある周辺諸国との協力により、インドを拠点とするこれらの大学が、今後どのような次世代を育成することができるのかが問われる。インド政府は、外国からの留学生のみならず、インドにルーツを持ちながら国外に居住するインド系ディアスポラ・ネットワークを重要な知的資本とみなし、自国の発展に活かそうとしている。インドの高等教育機関で学ぶインド系ディアスポラ対象の特別入学枠や奨学金支給といった学位取得目的の長期の学びの支援に加え、自らのルーツであるインドへの理解深化を主目的とした短期の学びの支援も行っている。外務省は2004年より、モーリシャス(アフリカ)、フィジー(オセアニア)、スリナム(南米)、ガイアナ(南米)、トリニダード・トバゴ(カリブ)のインド系ディアスポラの青年(18-30歳)を優先的に招聘する短期(約3週間)のプログラム「インドを知るプログラム」を実施している(累計参加者約1300人)。これらの国には、19世紀の英領インド時代に大量のインド人契約労働者移民(ギルミティヤ)が派遣され、今日国民の多くを印僑が占めている。モーリシャス、ガイアナ、スリナム、トリニダード・トバゴの大統領や首相の中には、ギルミティヤ2世・3世もいる。プログラムの参加者は、滞在期間中にインドの2つの州を訪ね、大学、企業、農村等を訪問しながら、インドの政治経済、歴史、社会・生活文化について理解を深める。渡航費と滞在費はインド政府が負担している。インド発高等教育の世界展開インド政府は教育の質向上のために外国大学の分校設置を促す「外国教育提供者法」の制定に向けて取り組んできた。しかし、この法案は、英語圏の国々からの政治的・文化的支配や教育格差の拡大を危惧する共産党から反対リクルート カレッジマネジメント205 / Jul. - Aug. 2017

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