カレッジマネジメント205号
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57リクルート カレッジマネジメント205 / Jul. - Aug. 2017よりもカーストという属性を選抜基準とする特別入学枠が設置されている。こうした積極的差別是正措置に象徴されるように、インドでは弱者層の社会的統合やアクセス拡大が教育の質より重視されてきた。NIRFでは、教育の質を重視すると同時に、インドの発展状況や社会構成に配慮して、教育機関の質、成果、評判を測る「教育・学習・資源(30%)」「研究と専門的実践(30%)」「卒業後の成果(20%)」「評判(10%)」に加え、女性・経済的社会的弱者・身体障害者等の弱者層の参加促進努力を測る「アウトリーチと包括性(10%)」を指標に含めている。大学の質や成果の評価については、既に連邦レベルの第三者質保証機関である国家認証評価カウンシルが4段階のグレード評価を行っていることから、NIRFの開発計画が発表された当初はその必要性自体が問われたが、包括性を指標に取り入れている点、また教育機関の具体的順位を示すものとしては民間雑誌の大学ランキングより客観性が高いという点で、価値が見いだされる。世界的な人材獲得競争が激化する中、優秀な人材を輩出している教育機関を特定するNIRFは、学生の大学選びだけでなく、国内外の企業の人材獲得や教育機関の国境を超えた学術交流連携にも役立つと言える。無料オンライン講座による質の高い教育の提供インド政府は2016年に、講座をオンラインで提供するMOOCsのインド版プラットフォームとしてSWAYAM(Study Webs of Active-Learning for Young Aspiring Mindsの略称、ヒンディー語で自学自習を意味する)を開設した。MOOCsの最大のメリットは、講座提供機関の学生でなくともオンラインにアクセスさえできれば誰でも講座を無料で受けられる点にある。オンラインで提供される動画を視聴し、自己採点のできる課題に取り組み、疑問点があればオンラインのディスカッションボードに投稿してほかの受講生や講師に質問できる。2017年現在のSWAYAMの参加機関数は38校と、先進国のMOOCsと比較して少ないが、開講講座数は346コースで、フランス、スペイン、日本のそれを上回る。SWAYAMに参加する大学は連邦大学や州立大学といった政府系教育機関が大多数で、インドトップレベルの大学が多い。最も多く開講しているのはIIT(219コース開講)で、デリー大学(44コース開講)がそれに続く。これらが開講する講座だけで全体の約76%を占める。インドの高等教育機関の教員の大多数は臨時講師か非常勤講師であり、適切な訓練を受けた教員の不足は深刻な問題となっている。SWAYAM設立の狙いは、こうした教員不足や、地理的・経済的理由等により質の高い高等教育を受けられない弱者層にトップレベルの教育を無償で提供し、彼らを知識経済のメインストリームに参加させることにある。質の高い教育を無償で提供するSWAYAMは、インドの教育政策の基本原則である「アクセス、質、公平性」を実現する教育として期待される。しかし、提供されている講座の使用言語は英語であり、弱者層の多くが使用するヒンディー語やそのほかの地方語への翻訳化が進められておらず、また内容がアカデミックな内容に偏っており、経済や社会との結びつきが薄い等の批判もあり、基本原則の実質的実現のためには改善の余地があるだろう。以上見てきたように、インドは質や公平性の面で課題を抱えつつも、高等教育を取り巻く国際的な状況を踏まえながら、「知の超大国」を目指すべく、教育改革に取り組んでいる。改革を実行する指導者として期待されるモディ首相率いる連邦政府は現在、新教育政策(1986年策定、1992年改訂)に続く新たな教育政策の策定に取り組んでいる(2017年度策定予定)。国民からの意見聴取のために公表された教育に関する33の検討テーマのうち、高等教育に関するものは20にのぼる。その中には、高等教育の国際化、高等教育機関のランクづけとアクレディテーション、オンライン講座の促進に加え、質向上に向けたガバナンス、地域間・ジェンダー間・社会的格差の解消、民間セクターとのパートナーシップ、研究とイノベーションの促進等のテーマが挙げられている。新たに策定される教育政策のもと、南アジアの大国インドが、その発展状況や地政学的・歴史的・社会文化的特徴を活かしながらいかに高等教育改革を進めていくのか、今後の展開が注目される。※粗就学率:同一年齢層の総人口に対する登録就学者総数の割合

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