カレッジマネジメント206号
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75資金を投入し、世界のトップレベルに引き上げる国家プロジェクトを実施してきたことがある。1995年に正式に開始された211プロジェクトは、21世紀にかけて100校程度の重点大学・重点学科・専門を構築し、教育の質を向上させ、科学研究及び管理運営において、最高水準に到達させることを目標としたものである。また、985プロジェクトは、1998年5月4日北京大学創立100周年記念の式典において、江沢民国家主席(当時)が国家の現代化実現のため、一部の中国の重点大学を世界最高水準に引き上げる必要があると発言したことに端を発したものである。985プロジェクトでは、第一段階として北京大学・清華大学の2大学が選定され、重点的な資金援助を得て教育・研究面の拡充がなされた。その後支援対象校が拡大され、2017年現在39大学が選定されており、なかでも九校連盟(C9、チャイニーズ・アイビーリーグ)※2と呼ばれるトップ大学9校に傾斜配分方式で重点的に財政支援が行われている。2015年10月には、習近平政権下でも新たな世界一流大学・一流学科の形成に関する通知が国務院から発布されており※3、本通知において2020年までに若干の大学と一部の学科を世界一流ランクに引き上げること、最終目標として今世紀中に中国を「高等教育強国」とすることが国家目標として提示されている。実現に向けた重点項目として、教員養成、創造性のある人材の育成、科学研究の水準向上、優秀な文化の継承と創造、基礎研究の成果の応用などの5項目が挙げられており、これらを実現するための改革として、高等教育機関に対する党の指導強化、大学内部のガバナンス改革、社会が高等教育の運営に参与するメカニズムの構築、国際交流と連携の推進の5項目が定められている。世界一流大学の構築において特に重視されているのが高等教育の国際化である。高等教育の国際化に関する施策には、自国学生の海外派遣、外国人留学生の受け入れといった人的移動を中心とする伝統的な留学交流に加え、2001年のWTO加盟を機に、カリキュラムの国際化やバイリンガル教育の推奨等、国際通用性を意識した取り組みや中国と外国の教育機関の連携によるトランスナショナル高等教育の推進などの施策が講じられている。さらに近年は、中国語・中国文化を世界に普及することを目的とした孔子学院の世界展開や、中国の大学の海外進出の推奨等、中国語・中国文化・中国の教育をソフト・パワーとして海外に向けて積極的に発信して行く政策がとられている。中国では、これら高等教育の国際化に関する政策全てが経済・外交政策等と密接に関連づけられており、国家発展戦略の一環として推進されている。建国以来中国政府は、特に理工系高度人材の育成手段として派遣留学を推奨してきた。1990年代中盤以降は私費留学が急速に拡大し、2016年度の統計では中国人海外留学者総数は54万4500人、うち49万8200人が私費留学者と圧倒的多数を占めているが、中国政府は2007年より、国家発展戦略としての高等教育の国際化リクルート カレッジマネジメント206 / Sep. - Oct. 2017米国中国英国日本フランス韓国ドイツ198287929702072012(PY)40(%)35302520151050図1 全分野での論文数シェアの推移(3年移動平均%)(整数カウント)出典:文部科学省科学技術政策研究所『科学研究のベンチマーキング2015』p .122

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