カレッジマネジメント207号
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39リクルート カレッジマネジメント207 / Nov. - Dec. 2017いうことだろう。もう1つは先述したAP再設計のなかで浮かび上がった、従来のPBT(Paper Based Testing)では測れない要素の存在だ。PBTよりも動画や音声を活用した評価プロセスのほうが向いている要素については、デジタル技術を活かしたCBTで補完する。例えば実験分野では動画で実験映像を流し、「どこに疑問を持ったか」を記述式で回答させ、着眼点や科学的思考に基づく表現力等を評価する。教師や医療従事者の適性を評価するために、各分野に関する映像を流し、内容を踏まえた小論文形式の出題や口頭試問を行う。一定の学習力を評価するために、基本的な問題をいくつか解かせて即時採点し、間違った問題の解説を提示したあと、類似問題を出題して解けるかどうかを問う。評価する能力を明確にすることで、現行の入試制度と整合性がとれない部分を抽出し、解決の1つとしてCBTを用いる。共通テストの運用面等でよく使われる、「大量のテスト採点を自動化する」といった意味合いではなく、学力評価の工夫としてのCBT活用というわけだ。実現に当たってはセンター主導でプロトタイプを開発し、実物を叩き台に議論を進めてきたという。次に「特色加点」である。公表されているAPを踏まえ、高校時代の活動や実績を申請書に記入し、加点評価とできる制度。申請は自由で、申請する内容が入学後の学習や活動にどう活かせるかを記入し、なければ0点となる。導入の狙いは、合格ボーダーライン付近の受験生の合否を、学力以外の要素を加えて判断するためだ。西郡教授はそれに加え、「高校生はそれまでの自分を振り返る機会がほぼありません。自省の機会を入試プロセスに盛り込み、適性や志向とのすり合わせを自ら行ってもらうことにこそ意味があります」と話す。最後に、「継続・育成型高大連携活動」である。これは高校生が自らの希望進路について、大学の講義やディスカッション、社会人との対話等を通じて理解を深めていくもので、高校3年間計7回で設計されている。「とびらプロジェクト」の名称で親しまれ、現在開催しているのは、教師へのとびら(教育学部)、科学へのとびら(理工学部、農学部)、医療人へのとびら(医学部)の3つ。今後、他分野での導入も進める予定だという。学部に紐づくものではあるが出願義務はなく、あくまで高大連携活動であるのが特徴といえるだろう。以上見てきたように佐賀大学の高大接続事業は、高大連携カリキュラムを開発しながら、大学入学共通テスト・CBTも活用した個別選抜・特色加点により、学力の3要素を多面的・総合的に評価し、全体進捗はIRによりマネジメントしていく構図である。「大学側が提供する機会次第で高校の教育や生徒の学習活動が変化しうるし、また入試の中に『高校での学びに期待すること』を織り込むことで、高校側の入試対策も本質的なものに変容する。入試による高大接続とは、つまりそういうことだと思います」と西郡教授は話す。大学からのメッセージが明確になれば高校でどんな準備をしてくれば良いのかが分かる。最終的にはそうした学生を受け入れる大学側の教育も変容せざるを得ない。一番の狙いはそこにあるように感じた。連携・選抜・教育を循環するPDCAサイクル入学者選抜特集佐賀大学版IRによる確実な事業マネジメント高校時代の様々な活動・実績について学部・学科等のアドミッションポリシーや学部の特色に応じて加点形式で評価一般入試での評価を含めて検討情報技術を活用したテストを全国に先駆けて開発 PBT(ペーパーテスト)では評価できない能力や適性を評価継続・育成型高大連携カリキュラムの開発・実施(高校3年間にわたる教育プログラム)平成30年度推薦入試より、理工学部と農学部において、「佐賀大学版CBT」の1つの形式である「基礎学力・学習力テスト」の実施を決定平成33年度入試までに全学部で導入予定インターネット出願と連動したICTを活用した選考資料の評価支援システムの開発他大学への波及同様のプログラムを実施する大学との情報共有高校の学びの転換新たな学習活動の喚起芸術地域デザイン学部で導入済み経済学部で平成30年度入試より導入平成33年度入試までに全学部で導入予定とびら名 実施学部 導入年教師へのとびら 教育 2014年科学へのとびら 理工、農 2016年医療人へのとびら 医 2017年社会へのとびら(予定) 経済 2018年情報技術を活佐賀大学版CBT高校時代の様々な特色加点高1高2高3修了証申請可波及活用促進波及促進変革複数分野で展開:佐賀大学とびらプロジェクト大学教育・高校教育へのフィードバック~PDCA~特色加点新たな個別選抜の開発大学入学希望共通テスト主体性・多様性・協働性思考力・判断力・表現力知識・技能多面的・総合的評価入試KPI評価高大連携図表 佐賀大学の高大接続改革全体概要(本誌 鹿島 梓)

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