カレッジマネジメント207号
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55リクルート カレッジマネジメント207 / Nov. - Dec. 2017あったとされる。違憲判決を受けて政府は新たに政令を制定し、概ね2013年までの移行期間を以て、国有法人化された高等教育機関を通常の国立高等教育機関に戻す決定をしたのである。こうした流れと並行して、高等教育の国有法人化に対する批判も根強くあった。その批判の一つは、高等教育のビジネス化である。国有法人化された一部の大学では、特別選抜入試による高額な入学金や授業料の徴収、非正規プログラムの拡充による増収といった自己収入確保に力を注ぐ傾向が強く、大学入試の公正性が問われる事態も見られた。このような状況の中で2012年8月に制定されたのが、前述した高等教育法である。この法律が制定されるまで高等教育は、2003年の国民教育制度法に基づき、高等教育に関する政令等がその運用を規定してきた。教育法人法の違憲判決も踏まえ、高等教育法は高等教育機関に関する国の責務を改めて明記している。高等教育の法人化に関しては、質の高い高等教育を生み出すため、一定の自律性が付与される法人格の国立高等教育機関を作ることをうたい、新たな規定が設けられた。法人国立高等教育機関になるためには厳しい条件が課せられている。例えば、国際的な出版物や特許の数、国立高等教育アクレディテーション機構によるA評価、財政の健全性、国際レベルでの学生の活動等である。一方、法人国立高等教育機関として認可された場合、学術分野では教育プログラムの設置・廃止の権限、教職員の採用・解雇の権限等が与えられる等、高い自律性を持つことができる。高等教育法が制定され、最初に法人の地位を与えられたのは、かつて国有法人の地位を有していた前述の7校である。その後、ハサヌディン大学、スプル・ノーペンバー工科大学、ディポネゴロ大学、パジャジャラン大学が法人格を得ており、2017年1月までに法人国立高等教育機関は11機関となった。以上見てきたように、インドネシアの高等教育は2000おわりに─インドネシア高等教育のゆくえ年代以降ダイナミックに変化している。それは高等教育機関の全体的な底上げを図り、世界水準の高等教育機関を目指すものである。一方で2010年頃から、教育の営みが商業主義に陥ってしまうことに対する警鐘や、過度な自由主義に対する批判がなされることにより、一定の抑制が働いているように思われる。このことは上述した憲法裁判所による違憲判決にも表れている。現在は2000年以降急ピッチで進めてきた教育改革を再考する時期に差し掛かり、慎重な舵取りに転換しつつある。一定の抑制力が働くことにより、教育改革の流れは時に後戻り、あるいは停滞していると捉えることもできるであろう。既に実施に至った政策の撤回は現場を混乱させるものではある。しかし他方で、改革によって生じた問題や不満に機敏に対応し、過度な改革に歯止めをかける抑制力が、インドネシアでは適度に働いていると捉えることもできる。同時に、拡大する国内の格差が政府にとって重い課題となっている。この課題に対して政府は、ジャワ島外の地域における国立高等教育機関の設立や、就学率の低い地域の学生を対象とする奨学金制度を充実しようとしている。これにより、国内格差の問題と貧困層や社会的に弱い立場に置かれた人々の不満を解消し、「多様性の中の統一」を国是に、大国としてのインドネシアを維持しつつ発展させようとしている。筆者は、行きつ戻りつしながら柔軟でダイナミックに教育改革を進めるインドネシアの改革の動きの中に、強靭な底力を見る。※1Kementerian Riset, Teknologi dan Pendidikan Tingg: RISTEKDIKTI. 英語では、Ministry of Research, Technology and Higher Education.(RISTEKDIKTI Website 2017年9月6日閲覧)※2ポリテクニックのトップ25も同時に発表された。※3Laporan Tahunan 2015, Kementerian Riset, Teknologi dan Pendidikan Tinggi, 2016, p.28.※4Laporan Tahunan 2015, Kementerian Riset, Teknologi dan Pendidikan Tinggi, 2016, p.5, pp.38-39, p.43.※5Undang-undang Nomor 12 Tahun 2012 tentang Pendidikan Tinggi. なお、筆者による同法の日本語訳は「Ⅷ.インドネシア共和国 インドネシア共和国高等教育法(仮訳)」、『アジア諸国における高等教育法・大学法(資料集)』(科学研究費補助金・基盤研究B「アジアの『体制移行国』における高等教育制度の変容に関する比較研究」中間報告書第3冊、平成25年度~28年度、研究代表者:南部広孝)、2016年10月、pp.145-182に掲載した。※6大学評価・学位授与機構ブリーフィング資料「インドネシア高等教育の質保証」(同機構評価事業部国際課作成)、2014年6月(2015年2月改訂)。※7Laporan Tahunan 2015, Kementerian Riset, Teknologi dan Pendidikan Tinggi, 2016, pp.40-45.※8PANGKALAN DATA PENDIDIKAN TINGGI. URLは、https://forlap.ristekdikti.go.id/(2017年9月6日閲覧)

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