カレッジマネジメント207号
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56リクルート カレッジマネジメント207 / Nov. - Dec. 2017大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニングといった座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働と、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。この連載では、この「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目しながら、学長及び改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく。各大学が活動の方向性を模索する中、様々な取り組み事例を積極的に紹介していきたい。今回は、栄養学部のみという独自性をもつ女子栄養大学で、食の現場で求められる「働く」につながる「学び」への取り組みについて、香川明夫学長、染谷忠彦常務理事にお話をうかがった。女子栄養大学の栄養学部は3つの学科からなる。実践栄養学科は管理栄養士、栄養教諭養成、保健栄養学科は栄養士、臨床検査技師、養護教諭の養成、食文化栄養学科は公的資格にこだわらず食の文化に携わる、と目指すところは異なるが、共通して重視するのが「創立者の精神」だ。女子栄養大学の前身となる「家庭食養研究会」の発足は1933年。きっかけは、大正時代まで国民病といわれるほど多くの患者がいた脚気(かっけ)だった。伝染病、感染症と思われていた病気だが、東京大学医学部等の研究により、ビタミンB1の欠乏という原因が昭和初期に明らかになった。そして、ビタミンB1を含む米の胚芽を食べる予防法を広めるために、研究に携わっていた医師・研究者の香川昇三・香川綾が「家庭食養研究会」を立ち上げたという経緯だ。創立者夫妻の孫にあたる香川明夫学長は「栄養士という概念も、食生活を整えるという考え方も全くなかった時代に、予防医学を元に、食を通じて人の健康の維持向上を図ることを目指した建学の精神、単に管理栄養士等の資格取得のための学校ではないことを、学生に理解してもらいたい」と言う。そのために、入学前学習のひとつとして『香川綾の歩んだ道』という本の読書課題がある。「提出された読書レポートから、『香川綾さんはすごい人だ』と認識する学生が多いことが分かります。『そういう学校に入学した以上、頑張って勉強しよう』と、入学前に意識する。退学率を低くする等の効果もあると思います」(香川学長)。戦時中・戦後の危機的な食生活、食べ物が過多な時代には生活習慣病、近年は、食環境の変化、孤食化の傾向、失われつつある食の伝統等を背景とする「食育」。直面する課題は変化してみえるが、女子栄養大学のミッションは変わらないと香川学長は考えている。「体を動かしてお仕事されている方、家庭にいらっしゃる方、高齢者、子ども、外国人、食べない人はいない。全ての人を対象に、個々人の生活の質(QOL: Quality of Life)の低下、少子高齢化の進む日本の元気がなくなっていくことを食い止めたい、そ女子栄養大学150件もの産学官連携を通じて、食と健康を支える人材を育成香川明夫 学長食を通じてQOLを支える人材を育成

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