カレッジマネジメント207号
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62国は、2016年9月に内閣総理大臣を議長とし、関係閣僚、経済界・労働界トップを含む民間議員で構成する「働き方改革実現会議」を設置し、10回の審議を重ね、2017年3月に「働き方改革実行計画」(以下「実行計画」)を決定・公表した。この決定を受けて、関係審議会において関連法案の国会提出に向けた審議が行われたが、2017年9月の衆議院解散により、本稿執筆時点では法案提出に至っていない。しかしながら、政労使一体となった議論により実行計画が決定されたことの意味は重く、働き方改革実現に向けた動きが止まることは考えにくい。2017年8月の完全失業率2.8%、有効求人倍率1.52倍、新規求人倍率2.21倍という数字が示すとおり、1995年をピークに生産年齢人口(15歳以上65歳未満)が減少を続ける一方、緩やかな景気回復基調が続く中、人手不足感が高まりつつある。有効求人倍率はバブル期最高の1.46倍を超える。2017年7月に内閣府が公表した『平成29年度年次経済財政報告』においても、「労働供給の停滞が成長制約となる可能性があるため、潜在的な労働供給の活用に加え、限られた労働力の効率的な活用に向けた取り組みが重要である」(同報告27頁)との指摘がなされている。既に、人材確保に苦しむ介護・福祉分野や中小企業、閉店や営業時間短縮を余儀なくされるサービス業、運賃値上げを進める運輸業など、人手不足は様々な事業者に深刻な影響を与え始めている。一方、労働者にとって、長時間労働の解消、仕事と生活の両立、多様な働き方の選択などはかねてからの課題であり、現下の状況はこれらを実現する好機でもある。このように働き方改革には、国の経済成長、企業の競争力・収益力、個人の働き方・暮らし方という3つの側面があり、生産性の向上を通して一体的にこれらをより良き方向に向かわせようとの意図が示されている。働き方改革実現会議では、以下の改革テーマについて、具体的な方向性を示すための検討が行われた。そのテーマとは、①非正規雇用の処遇改善、②賃上げと労働生産性向上、③長時間労働の是正、④柔軟な働き方がしやすい環境整備、⑤病気の治療、子育て・介護等と仕事の両立、障がい者就労の推進、⑥外国人材の受入れ、⑦女性・若者が活躍しやすい環境整備、⑧雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の充実、⑨高齢者の就業促進、の9つである。大学運営にも関わりが深いと考えられるテーマについて、その要点を整理しておきたい。1つめの「非正規雇用の処遇改善」は、「同一労働同一賃金」の原則に従って、同一企業・団体における正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものであり、基本給、各種手当、働き方改革実現会議で検討された9つの改革テーマ大学を強くする「大学経営改革」「働き方改革」は大学運営の在り方を問い直す好機吉武博通 公立大学法人首都大学東京 理事リクルート カレッジマネジメント207 / Nov. - Dec. 201773働く人の視点に立った労働制度の抜本的改革

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