カレッジマネジメント207号
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65リクルート カレッジマネジメント207 / Nov. - Dec. 2017多様な働き方ができる人事制度を導入する企業も着実に増えている。その一例としてグループウェア事業を展開するサイボウズの取り組みを同社のホームページの情報に基づき紹介する。サイボウズは1997年創業、従業員516名、売上高80億円(いずれも連結ベース)の東証一部上場企業である。同社は2005年に離職率が28%と過去最高を記録したことを契機としてワークスタイル変革に取り組み、離職率を4%以下に低下させることに成功した。多様な働き方を可能とする制度として、2006年に最長6年間の育児・介護休暇制度、2007年に個人の事情に応じて勤務時間や場所を決めることができる選択型人事制度(現在は9種類から選択)、2010年に在宅勤務制度、2012年にウルトラワーク、育自分休暇制度、副業許可、2014年に子連れ出勤制度を導入するなど、社員同士で議論を重ねながら人事制度をつくりあげてきた。ウルトラワークは選択した働き方と異なる働き方を単発で行うことのできる制度であり、育自分休暇制度は35歳以下で自分を成長させるために退職する社員を対象として、最長6年以内なら復帰可能とする制度である。「100人いたら100通りの働き方」があってよいとの考え方に基づいた取り組みであり、上述のような「制度」、情報共有クラウドなどの「ツール」、多様性重視・個性の尊重などの「風土」という3つの要件があってこそ実現できるとしている。同社は「働きがいのある会社ランキング※」に4年連続ランクインするなど、社会的な注目度も高い。サイボウズが導入した制度が大学に相応しいかどうかは各大学の事情に応じて判断すべき問題だが、個々の社員が会社で働くことに何を求めるかということに重きを置き、それに応える選択肢を可能な限り用意しようと考える姿勢は学ぶべきであろう。生産年齢人口の減少が続くなか、将来にわたって「選ばれる職場」であり続けることは、大学を持続・発展させるために必須の要件となるであろう。大学は「選ばれる職場」であり続けられるか日本の多くの組織は、新卒一括採用と長期雇用を前提に、組織が求める働き方によって組織に貢献することを重視してきた。組織に対する強い忠誠心、人材育成に関する高い意識、ボトムアップの風土などにより若手人材の成長が促された面もあり、組織と個人の両者にとって有効だった面も少なくない。しかしながら、企業、官公庁、大学を問わず、組織を取り巻く環境変化とグローバル化が加速するなか、国境を超えた人材獲得競争も激化しつつある。働き方は個人に選択させ、組織は個人にどのような役割と成果を期待するかを明確に示す。その上で対話を通して成果の公正な評価を行いながら組織と個人の信頼関係を築く。これからの組織と個人の関係はこのような方向に向かうのではなかろうか。それによって様々な背景・経験・能力を有する多様な人材を集めることができる。国が進める働き方改革は労働者保護の性格が強く、雇用の流動化による成長分野への人材移動の促進などの点で不十分との指摘もある。一方で、雇用の流動性を高めることは、雇用の安定を損なうことにもつながりかねず、労働組合からの根強い反対もある。その意味でも、働き方や労働市場がこれからどう変わるか見通せない面もあるが、選ばれる職場、働きがいのある職場を目指した改革は進めなければならない。本稿では、働き方改革について主として大学運営の視点から論じてきたが、教育面においても検討すべき課題は多い。働き方改革が目指すものは、一人ひとりがその意思、能力、事情に応じて多様な働き方を選択できる社会である。学生には、その意味を十分に理解させ、主体的・自律的にキャリアを設計できる能力を身につけさせなければならない。また、個人の学び直し、再就職支援、第4次産業革命に対応した知識・スキルの育成など、社会的要請の多様化に対応した教育機能の拡充にも取り組んでいかなければならない。働き方改革は教育改革を加速させ、大学の存在価値を社会に示す好機でもある。※Great Place to Work® Institute Japan

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