カレッジマネジメント207号
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8リクルート カレッジマネジメント207 / Nov. - Dec. 2017「どんな問題にも唯一の正解がある」といった前提をとっていません。「偏差値の高い大学に入れない高校教育は迷惑だ」という保護者等からの圧力に抗しながら考える力を涵養しようと頑張ってこられた高校の努力に報いていくことが、日本の教育を変えていくことにつながると思っています。そのためには、高校での多面的評価を大学入学者選抜に接続するAO入試を拡大する必要があるのです。 将来は、アメリカのようにAO入試の専門スタッフが自分たちの欲しい人材を探しに行き、スカウトしてくるというやり方になっていくべきですが、多くの私大は自力でそのコストを担うことができません。教育改革・入試改革の課題の一つは財政面にあるとも言えるでしょう。司会 共通テストに記述式問題が導入されます。高校での言語学習や探求的な学習を定着させるための意図がありますが、宮本先生はこれらの取り組みによって高校側に変化が現れると思われますか。宮本 記述の分量が80~120字程度と十分ではなく、中途半端だと感じています。ただ、子どもたちを見ていると、年々言葉の力が落ちていて、長い文章を読めないし書けない。記述式の導入は、この歯止めとなることを期待する意味合いもあるでしょう。自分の考えを自分の言葉で表現するという当たり前のことを、多くの高校生に意識させることと、教員側もしっかり意識して教えていくという点では、一定の意義があると思います。司会 お茶の水女子大学でも、新フンボルト入試でレポートをまとめる力を見ていくというお話がありました。国立大「大学入学共通テスト(以下、共通テスト)」に記述式問題が導入されるメリットと課題とは──司会 確かに、AO・推薦入試で受験生を多面的・総合的に見るには、評価する大学側も大変な手間や時間がかかります。評価する人の育成にもコストがかかりますし、AO・推薦入試を全学生の何割とするかも重要なポイントでしょう。それについて、どのように考えていますか。室伏 本学は、1学年の定員数が500名に満たない小さな大学です。AO入試以外にも推薦や3年次編入、帰国子女入試等の特別入試で入学する学生は全体の30%います。学内では、特別入試の定員をこれ以上増やさないほうがいいという意見があるので、総数は変更しない方針です。ただ、多様な特別入試をバラバラにやると教員の負担が大きいため、現状の特別入試を整理し、一つに統合することはあってもよいと思います。鎌田 本学の場合は一般入試の受験者だけで11万人います。それ以外の入試も含めてどんな選抜方法をとるかが、これからの大学入学者選抜のあり方に対して、一定の影響力を持つという自負を持って入試改革を進めて来ました。現在は、AO入試や各種の推薦入試を合わせると約4割ですが、将来的には6割に拡げたいと思っています。 早稲田大学総長は学長と理事長を兼ねており、理事長としての経営的観点からはマンパワーとコストについて意識しています。マークシートだけの入試は人手を節約できます。機械が判定し、効率的に受験生を選別できる。苦情が来ても正解は一つなので、対処しやすいという点では良い方法です。高校生も大学に入るまで、マークシートによる唯一無二の正解を出す教育を徹底的に受ける。しかし、大学教育はAO・推薦入試の入学者比率を増やせるか──記述式導入は、高校生にとっても、高校の先生にとっても意識改革につながるもの。すなわち、教育の方向性を変えるものだと思います。──室伏氏        

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