カレッジマネジメント208号
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19こうした「バイオの総合大学」「研究第一」という大学の特徴は、創設以来揺らぐことなく、法人と大学で共有されてきたのである。「人口減少や大手大学の改革等を相手に、地方大学は苦境が続きますが、私学は建学の精神に拠らなければ生き残ることができません。建学の精神がぶれると、大学の方針がぶれることになる。受験生や社会に対して大学の存在意義を示すためには、そもそもこの大学が何のために在るのかという、建学の精神が軸になるべきでしょう」と蔡学長は話す。これは、言葉を変えれば、大学創設以来バイオ以外の他分野に進出することなく、バイオに特化しその研究の高度化を進めてきたことが、大学の「強み」となっていることを示す。市場や分野の衰勢に呼応して新しい学部学科を作り、領域を広げていく動きを否定するものではない。しかし、長浜バイオの場合は、創設の趣旨に照らし、また経営的観点からしても、1つの武器をしっかり磨きこむことが重要だと当初から認識していたということだ。そしてそのことが、毎年6〜10倍の志願倍率を維持し続けている背景となっているのである(図表2)。もちろん、現在の大学を取り巻く経営環境は、建学の精神に基づいて大学を運営していればそれだけで安泰である時代ではない。蔡学長が2017年4月に就任し、最初に着手したのはガバナンス改革である。「小規模大学は組織が小さいからこそ、意思決定と実行のスピードが強みであり、勝負どころです。1つの学部で募集が失敗しても他の学部の成功で埋め合わせが可能な大手大学と違い、1つの領域に特化しているということは、そこで負けたら全て負けということ迅速な意思決定を実現するガバナンス改革でもあります。大きな資金を持つでもなく、失敗しない大学経営を着実に行うためには、意思決定の速さと動くスピードを重視した経営が必要です」との言葉の通り、従来の教授会中心の意思決定を学長中心に行う機構改革と、迅速な大学運営を実現するためのPDCAサイクル構築を進めている。具体的には3つの例が挙げられる。第一は、学長直下においた「学長協議会」を中心に大学運営を進める体制としたことだ。学長協議会は、学長、学部長、研究科長、教務担当機構長、事務局長、教務担当課長から構成されており、学長のリーダーシップのもと少数精鋭で大学運営を議論していくことで、スピード感のある大学運営を実現する。これは同時に、学長のガバナンスをチェックする役割も果たす。第二は、教員採用の体制変更である。長浜バイオでは教員採用は必ず公募で行う。これは研究能力の高い教員をしがらみなく採用することに加え、志高い若手の研究者を集めることにもつながり、研究中心の大学としては生命線とも言える制度だ。しかし、これまでの個々の人事案件ごとに教授会のもとで人事委員会が作られていた方式から、学長直下の常設の人事委員会が採用人事を一元的に担当する方式に変更し、その人事委員会には学長もメンバーとして加わることとした。スピード感を持って変化に対応していくためには、大学全体の将来構想を見据え、都度示される方針に合致した教員採用が必要であるためだ。第三の改革は、細分化されていた常設の各種委員会を見直したことである。必要に応じてプロジェクトチームを作って機動的に課題に対リクルート カレッジマネジメント208 / Jan. - Feb. 2018図表2 近年の志願者数推移特集 小さくても強い大学の『理由』バイオサイエンス化学工学農学医学英語キャリア薬学生物学物理学人文科学図表1 バイオサイエンスが包括する領域イメージ0500100015002000250030002017201620152014201320122011201020092008学科別1070151817462351256427042162213220041882(人)(年)(人)学校全体020040060080010001200140016001800コンピュータバイオサイエンスアニマルバイオサイエンスバイオサイエンス学校全体※3年次編入学は除く ※2016年度入試で募集定員を変更※2017年度入試でバイオサイエンス学科臨床検査学PGを定員(定員30名)募集※バイオサイエンス学科158名のうち30名が臨床検査学PG定員枠 定員30名、志願者数127名

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