カレッジマネジメント208号
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57リクルート カレッジマネジメント208 / Jan. - Feb. 2018その上で、プログラム実施機関を中心に取り組みが活発な大学とそうでない大学の間で差が生じている可能性があること、推進の要となるコーディネータの多くが任期付であり、ポジションが不安定であること、女性限定公募を行っても応募がない等地方の大学に不利な状況が見られること、工学系で女性研究者の取り合いが生じていること等の課題を指摘する。文部科学省「学校基本調査」によると、2017年度(速報)における女子学生比率は学部44.8%、修士課程31.0%、博士課程33.4%であり、学部学生のうち理学の女子学生比率は27.2%、工学は14.5%となっている。一方、本務教員に占める女性比率は24.2%であり、職名別女性比率は助教29.8%、講師31.8%、准教授24.2%、教授16.2%と、上位職になるほど女性比率が減少する傾向は続いている。これらの数字を10年前の2007年度と比べると、女子学生比率が学部で4.1、修士で0.5、博士で2.7ポイント上昇しているのに対して、女性教員比率は18.2%から6.0ポイントの上昇となっている。また、職名別では准教授が6.0、教授が5.1ポイント上昇している。女子学生比率の上昇を上回るペースで教員の女性比率が上昇しているが、看護系教員の増加の影響を考慮する必要もあり、そのペースは緩やかと言わざるを得ない。仮に、年平均0.6ポイントの上昇が続いたとして、女性教員比率が30%に達するのは10年後になる。だからといって高い目標を掲げ、ただ加速すれば良いというものでもない。基本となるのは、これまでの取り組みで有効性が高いことが確認された施策を持続・定着させること、それらを他機関や地域に広く波及させること、より根の深い構造的な課題に、長期的な目標を明確にしながら戦略的に取り組むこと、の3つである。構造的課題の一つは次世代育成である。学部段階の女子学生比率は男子に対して10ポイント低く、なお開きが10年間で女性教員比率は6.0ポイント上昇女性のキャリア形成にいかなる役割を果たすべきかある。その差は修士課程になると38ポイント、博士課程では33ポイントとなる。自然科学系とりわけ理学・工学系における女子学生比率の低さも影響している。GGIの教育分野を見ると、日本は初等教育・中等教育の在学率はともに1位であるのに対して、高等教育の在学率は101位である。この問題に関して、国立女性教育会館の内海房子理事長は、「GGIの上位国はいずれもPISA(OECD生徒の学習到達度調査)の数学テストで平均点に男女差がないのに対して、日本は女子が男子に比べ20点も低い。初等・中等教育段階や家庭環境によって形成された意識に原因があるのだろう。研究者として活躍する女性、理工系分野で活躍する女性のロールモデルを増やしていく必要がある。大学の果たす役割は極めて大きい」と大学の取り組みに期待を寄せる。2つ目の課題は「意識」である。男女共同参画学協会連絡会は「無意識のバイアス-Unconscious Bias-を知っていますか?」のリーフレットを作成し、この概念に対する理解活動を展開している。女子は数学が苦手、女性はエンジニアに向かない等の固定観念もこれに含まれる。バイアスが採用・昇任の審査に及ぼす影響も指摘されている。女性教員を急速に増やすことは難しくとも、意思決定プロセスに女性をより多く参画させることは、学長や部局長の強い意志があれば可能である。3つ目の課題は、山村氏も指摘する地域格差である。採用において地方の大学が不利な状況に置かれたり、夫婦が長期にわたり別居を余儀なくされたりという状況は容易には解決できない問題であるが、地域を超えた大学間連携や企業・自治体等との地域連携等により、それを克服する道筋を見出さなければならない。これらの3点は大学のこれからを考える上で重要な視点である。とりわけ1つ目の課題は大きい。次代の女性研究者育成という目的にとどまらず、大学は女性のキャリア形成にいかなる役割を果たすべきかについて、より大きな文脈の中で多面的に検討する必要がある。【参考文献】「無意識のバイアス–Unconscious Bias–を知っていますか?」男女共同参画学協会連絡会(2017),http://www.djrenrakukai.org

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