カレッジマネジメント210号
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19リクルート カレッジマネジメント210 / May - Jun. 2018実際に産業界ではどのような人材ニーズがあり、学び直しを経た高度なIT人材の育成について、教育機関に対してどのような期待を持っているのか。現状、優れたIT人材の採用に力を入れている2社に話を聞いた。スマートフォンから簡単に売り買いが楽しめるフリマアプリの開発・サービス運営を行うメルカリでは、2017年12月、社会実装を目的とした研究開発組織「mercari R4D(以下、R4D)」を設立した。これまでもAIや機械学習等の技術を活用してきたが、さらに技術基盤を強化し、外部企業・教育機関と共同して様々なテクノロジーの社会実装・事業化を目指す。現在は「ブロックチェーンを用いたトラストフレームワーク」(慶應義塾大学)、「出品された商品画像から物体の3D形状を推定」(筑波大学)、「無線給電によるコンセントレス・オフィス」(東京大学)といった6機関との連携による8つの研究テーマが決定しており、すでに本格始動している。これらの研究開発で社会実装を進めるためには、高い専門性を持つIT人材の採用や育成は急務であるが、社員による教育には時間がかかる。大学等の高度教育機関に対する期待について、メルカリR4Dオフィサーの木村俊也氏はこう語っている。「社会実装を見据えた研究開発には、企業の力だけではなく、アカデミアの力が必要です。例えばGoogleやアリババは多額の資金を投入して量子コンピュータをアカデミアとかなり密になって共同開発を行っている。もちろんこれは、お互い強みを理解しているからできること。企業と大学の間の温度差を埋め、理解を深めるために、大学の研究室もオープンハウスのような研究開発や誰でも気軽に学べる学習スタイルをこれまで以上に取り入れてほしいですね」R4Dでは従来の中央集権型の研究所ではなく、最初からネットワーク型の共同研究、オープンイノベーションを意識したスタイルで研究開発を行っていくという。検索やメディア・EC等の多岐にわたるビッグデータを持ち、その分析結果をユーザーサービスやあらゆる課題解決に活用しているヤフー。同社は自社が持つビッグデータを活用したAI技術はもちろんのこと、様々な成長分野でのIT人材を採用するとともに、社内の育成プログラムも強化している。その一つが「社会人ドクター進学支援制度」だ。強化対象13分野の研究領域について理系博士課程へ進学する際に支援を行っており、その研究成果を自社の人工知能技術やIoT、広告技術等への導入、他企業との連携、学会での発表につなげるというものだ。100万円までの学費を支援し、週1日は学業に充てていいという特別な有休が与えられるという。「ビッグデータの解析やAI技術は専門的な知識が必要で、なかには大学でないと学べないものもあります。一方、ビジネスの変化のスピードは速く、それに追いつくためにも研究しながら課題を発見していく必要があります。また、企業の中で数年経験を積むと、現場ならではの課題を背景に自分の研究テーマを深掘りしたくなってくるもの。企業で業務を経験してからのほうが、研究テーマがより具体的になるのでよい、という人もいます。そうした社員に、会社を辞めて大学院に戻るのでもなく、博士号を諦めるのでもない、業務を続けながら博士号取得を目指すという選択肢を用意しています」と語るのは、「社会人ドクター支援制度」の創案者で、制度設計にも関わったYahoo! JAPAN研究所所長の田島玲氏だ。社会人の学び直しにおいては、本人の意欲はもちろんだが、送り出し側となる企業、産業界全体の理解や意識の向上が不可欠だ。ヤフーのように高度技術系人材が新たな知を吸収する支援をし、還元する場を作ることにより、企業の競争優位性は高まる。このような企業の動きがより増えることで、産業界に社会人の学び直しに対する理解と意識の向上が見られることに期待したい。成長分野の高度技術系人材に対する産業界の社会人学び直しにおけるニーズChapter3特集 人生100年時代の社会人教育田島 玲氏ヤフー株式会社 Yahoo! JAPAN研究所 所長木村俊也氏株式会社メルカリR4D オフィサー自然言語処理、量子コンピューティング、ブロックチェーン等の専門性を持つ技術系人材採用が急務働きながら学び直しする支援制度を導入し、高度人材のリテンションを高める企業も

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