カレッジマネジメント210号
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20日本の大学・大学院における社会人の比率は国際比較では非常に低い。学士課程入学者に占める25歳以上の割合はOECD平均の16.6%に対して日本は2.5%。その大きな阻害要因となっているのが、「費用」である。リクルート「ケイコとマナブ」が昨年12月に実施した「社会人の学習実施率に関する調査」では、過去1年間に勤務先からの指示以外で学び事※1を実施していない層にその理由を問うているが、費用が問題と答えた者の比率は60%。さらに、最も大きな理由と答えた者では2位以下の理由を大きく引き離している。無料か、それに近い金額で大学・大学院で学ぶことができる諸外国に対し、国や自治体による公的な支援の小さい日本では、例えば大学院への進学の場合100万円以上の費用を必要とする。年収の10%を越えるだけでなく、学習に費やす時間分の収入の減少まで考えると、二の足を踏むのは当たり前。特に30代〜50代の働き盛りの層では子どもの教育費や親の介護負担等と重なるケースも少なくない。所属企業が負担できるケースも少ない。国もその課題は認識しており、2014年より、従来の教育訓練給付制度に加え、「専門実践教育訓練給付制度」を創設している。そこで、この制度を所管する厚生労働省、また対象講座の拡充を進める文部科学省、経済産業省に、金銭的支援策の現状と今後の方向性について取材した。教育訓練給付制度は1998年、個人が自らのキャリア設計に基づいて主体的に学びを実施することを経済的に支援するため創設された。広く労働者の就業の安定を目的とする雇用保険の枠組みを用い、被保険者期間等にかかわる一定の要件を満たした者が自ら費用を負担して厚生労働大臣に指定された講座を受講した際、その費用の一部を給付する制度である。拡充された専門実践教育訓練給付制度の内容所管する厚生労働省人材開発統括官参事官(若年者・キャリア形成支援担当)伊藤正史氏に聞いた。「専門実践教育訓練給付制度創設の最大の理由は、労働市場の構造変化です。労働者と企業との関係性が変わり、現在の職場環境だけではなく、将来必然的に発生する変化に対応するには、一人ひとりの労働者がそれぞれの適性・能力・志向を活かした中長期的なキャリア設計を行う必要が高まってきた。これに資する教育プログラムは必然的に長期・高額なものとなるため、労働者の受講機会を確保する上での制度の充実が求められたのです」(厚生労働省・伊藤正史参事官)。表1のように、給付内容は一般教育訓練給付に比べ大幅に拡充されている。また、訓練実施の前にキャリアコンサルティング(または、在職者の場合、所属企業からの推薦)が必須となっていることも大きな特徴だ。「働く方々個々人の中長期的なキャリア形成のためには、キャリアの方向性を整理し、受講目的の明確化や受講への意欲の向上を行うことが効果的です。コンサルティングに対しては99%の受講希望者が『役に立った』『まあまあ役に立った』と答えているほか、受講後の講座に対する満足度の高さ(『大変満足』『おおむね満足』の合計は95.3%)にもつながっていると考えられます」(同)。※2さらに、企業が企業の負担により従業員に専門実践教育訓練を受講させた場合は、一定の要件を満たせば「人材開発支援助成金」として、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部について助成を受けることができるようになっている。これもまた、人材育成を個別企業だけではなく、社会全体で担っていこうという狙いの表れだろう。対象となる講座は当初は3つの類型であったが、その後新リクルート カレッジマネジメント210 / May - Jun. 2018社会人学習への国の金銭的支援制度と今後の拡充の方向性● PROFILE1967年大阪市生まれ。リクルート入社後は一貫して、進学・就職・転職といったキャリア領域に携わり、2006年より現職。『社会人&学生のための大学&大学院選び』『稼げる資格』等の編集を通じ、社会人大学院生や資格取得者などこれまで取り上げてきたライフヒストリーは3000例に及ぶ。社会人学習の専門家として、文部科学省ほか各種有識者委員を務める。リポート伊藤正史氏厚生労働省人材開発統括官 参事官(若年者・キャリア形成支援担当)『ケイコとマナブムックシリーズ』編集長リクルート進学総研 研究員(社会人学習領域)乾 喜一郎

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