カレッジマネジメント210号
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26リクルート カレッジマネジメント210 / May - Jun. 2018え続けることはできませんし、需要に応えられなければ大学院の経営は立ち行かなくなります。何ら、特別なことをやっているのではなく、当たり前のことをやっているだけです」。田久保善彦研究科長は、さらりと言われる。1990年代以来、大学における教育の質が云々され続けてきたが、考えさせられる一言である。こうしたことができるのも、迅速な意思決定システムを持っていることに由来する。学長、研究科長、副研究科長のリーダーシップのもと、学生サービスや制度の変更等、学校運営に関わる事項や、各学期に行う学生クラスアンケートの集計結果や要望に関する事項は、隔週で開催される会議で検討し、必要であればその場で意思決定を行う。また、カリキュラムや科目、教員等の教育研究に関する事項は、本来、教授会で検討される事項であるが、効率的、起動的に検討し、迅速な意思決定をするために、教授会の代表者によって構成される代議員会で検討し、学長が意思決定する形をとっているという。加えて、トップダウンが機能する体制が敷かれている。田久保研究科長は言われる。「本学には100人以上の教員がおり、その教員を全て集めた教授会で合議しようとしたら、決まるものも決まりません。そのため、本学では、学校・教育関係の法令や学則、学内の規定に定められた範囲で、このような意思決定の仕組みを導入していますが、その分トップは責任を負います。トップは、明確な指針やスタンスを示し、それに賛同した者が従う。そのパワーでもって、これまでやってきました。しかし、他方で、下からの意見を吸い上げることも忘れてはなりません。学生に最も近い人からの意見やアイデアは、今後の経営を左右するからです」。確かにこの手法は、企業経営そのものである。このトップダウンの事例が、「テクノベート特別講座」科目群の導入である。既出のベンチャーキャピタルの代表も務める学長が、投資案件をずっと見続けてきた中で、これからの経営は最新のテクノロジーを理解し、イノベーションを起こすことができる新時代のリーダーが必要だとの強い考えから、特別プロジェクトとして「テクノベート特別講座」の開発チームが組成され、代議員会での検討を経て、1年足らずの開講にこぎつけた。これをもし教授会の審議に回していたら、いつ開講できたか分からないと、田久保研究科長は懐古される。他方で、ボトムアップの事例は、冬季の教室や受付でののど飴設置である。訪問時にも、各階に各種ののど飴の入った籠が置かれていたが、仕事帰りに3時間の授業を受ける学生に安らぎをという、スタッフの発案によって実現したそうだ。些細ではあるが、こうした細やかなサービスは随所に見られ、それはほとんどボトムアップによる決定だそうだ。もう1つ興味深いのは、教員評価システムである。教員はビジネスができてなんぼという考え方が徹底しており、例えば、マーケティングを教える教員は、実際にマーケティングで成果を挙げた者でなければ無意味だという方針のもとで教員採用を行っている。また、教員の研究成果は、著名な学会誌に投稿することよりも、ビジネス・パーソンが手に取ってくれる書籍を刊行することに重きが置かれている。これを現在の大学に求めることは、到底無理であるものの、経営という観点からは一考に値する。グロービスのカリキュラムの領域には、「志」という科目群があった。その内容はリーダーシップ論であり、ほかのビジネス・スクールと大きく変わらないと述べたが、実は、この「志」とは、グロービスを貫く教育理念である。そもそもグロービスを立ち上げたのは、日本のビジネスを向上させるためには、就業後の学習機会が必要という考えが根底にあり、ビジネスを向上させるリーダーになるという「志」ある人を育成したいという思いがあった。そのもとに、大学院教育の収斂するところに「志」を存置している。図表3にあるように、正規のカリキュラム以外に、「志」を醸成する様々な仕組みが張り巡らされていることが分かる。それは、大学院教育を通じて、自分は何をすべきなのかを考えさせること、リーダーの社会的責務を自覚させることであり、これがグロービスの教育の根幹である。田久保研究科長は面白い例えを話される。「例えば、自身がマーケティングをよく分からなくても、それに長けた人を連れてこれればビジネスはできます。でも、そのビジネスをどのような方向に持っていくか、周囲をどのようにリードするのか、その志迅速な意思決定志ある者を育てる

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