カレッジマネジメント210号
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31リクルート カレッジマネジメント210 / May - Jun. 2018いうポリシーは作品やレポートの添削指導にも表れている。ほとんどのテキスト科目においてWebによる提出が可能であるが、著名な作家や研究者、現役の専門家でもある教員によるアドバイスが丁寧に書き込まれて返却され、評価には複数の教員があたっている。ほかにも、所属する学科・コースによっては、「資格課程」を併修することにより、学芸員資格、中学校・高等学校教諭1種免許状(美術)の取得も可能である。また、建築士試験(1・2級)受験資格は大学の通信教育部として日本で初めて取得できるようになったものである。卒業した後も、何らかの事情で退学した後も、学び重ね続ける人々のコミュニティがあることは、京都造形芸術大学通信教育部の大きな特徴である。通信教育部では、必ずしも「卒業」をゴールとしていないこともあり、大学には9年間在籍可能であるが、年限退学後に再入学する学生も毎年十数名いる等、学生はフレキシブルに学び重ね続けているという。そのためか、多くの大学では卒業生の同窓コミュニティが一般的であるのに対し、京都造形芸術大学では、途中で学びを中断した学生も含め入学した学生をひと括りとするコミュニティが存在している。先にも紹介した「藝術学舎」では、好きなもの、興味のあるものを自由に選択し、1講座から受講できる。東京、大阪、京都の3拠点を中心としながら、現地実習の訪問藝術学舎も実施しており、卒業や退学した後も全国で芸術に触れる機会を提供している。学生、教員、卒業生をつなぐコミュニケーションサイト「airUキャンパス」では、大学や学科・コースからのお知らせ、学生同士の学習会・展覧会等のイベント情報等が定期的に配信されている。大学側からの一方向的な配信だけでなく、フリートークコーナーでは自由なトピックスを学生や卒業生側が立て、交流することも可能である。こうした学び重ねを支えるコミュニティからの口コミにより、新たに入学を希望する人も少なくないようだ。しかしその一方で、周囲の理解を得ることができず、本人が入学を希望しても叶わなかったり、入学した後も職場学び重ねを支えるコミュニティと障壁にはオープンにできないような雰囲気も一部にはあるという。こうした点を尾池学長は非常に問題視しており、その背景には、「日本社会や企業の生涯学習に対する意識の低さがあるのではないか」と指摘している。芸術教育が一部の人々が嗜む特別な学問ではもはやない今、これほど多くの様々な人々の興味関心を誘う領域はないだろう。近年、いわゆる理数系教育にArt(芸術)を取り入れた「STEAM教育」が推進されており、芸術教育に対する期待も大きくなっている。京都造形芸術大学通信教育部で展開されている「週末芸大」「手のひら芸大」といった学習の形は、従来の高等教育、ひいては学校教育システムの枠組から見れば少々異質に思うかもしれない。しかし、「人生100年時代」を迎えるなかで、わが国の高等教育機関に対しても、多種多様な人々に「学びやすい環境(場所だけでなく、方法・手段・ツール等も含め)」で「質の高い学習プログラム」を提供することが強く求められている。高等教育機関において多種多様な人々が学び重ねることは、自身のキャリアの化学反応を起こすだけでなく、若者のキャリア形成にも良い影響を与えうる。京都造形芸術大学では、通信教育部の展覧会に通学部の学生が足を運んだり、通学部の学生向けに開催されるロールモデル研究会で通信教育部の学生が話をしたりする機会もあり、社会人、仕事をリタイアした高齢者、子どもを育てる女性等が学び重ねている姿は、通学部の学生にも良い影響を与えているようだ。尾池学長は「新しいことを突飛に取り入れるのではなく正常進化を続け、0~110歳の学生が学ぶことのできるような環境にしたい」と京都造形芸術大学の今後を展望する。そうなれば、親子2代はもちろん、3代にわたって学び重ねる意欲のある人々が集うことが可能であろう。親や祖父母が学ぶ姿は、子どもたちにも良い影響を与えるのではないだろうか。時代を先取りし、「大学で学ぶこと」の概念を柔軟に拡げていく京都造形芸術大学の今後に大いに期待したい。(望月由起 日本大学文理学部教育学科教授)※2016年3月、96歳で美術科陶芸コースの卒業生が、世界最高齢での大学卒業としてギネス世界記録に認定されている。特集 人生100年時代の社会人教育

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