カレッジマネジメント210号
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5日本では、生涯学習というと、ともすると高齢者の趣味的な学びがイメージされがちだった。それはそれで十分意味のある素晴らしいことではあるが、多くの国で、あるいは国際機関で議論されてきた生涯学習は、より若い世代を念頭に置いた職業能力を高めることにつながる学びであった。今、政府が掲げる「社会人の学び直し」は、諸外国でのそれに近いものだと言えよう。わが国での生涯学習が独特な展開となった理由の一つは、日本型雇用といわれる長期雇用慣行が存在していたことである。終身雇用とも呼ばれ、年功的賃金制度、企業別労使関係もその特徴だとされた。その入り口である新規学卒一括採用も特徴の一つである。「一括」というのは、特定の「空席」に対応した採用ではない事務系等の大きなくくりでの採用で、職務も勤務地域等も限定されない「無限定正社員」であることが多い。「無限定」である一方で、企業はOJT(On-the-Job Training)を基軸とする企業内での教育訓練を展開し、労働者の職務の幅を広げたり職種転換を行ったりすることで、変化する経営環境への適応を図ってきた。職務を限定した採用、即ちジョブ型雇用が一般的な国で、企業が環境変化に対応するためには、撤退する業務関連の職務に就く労働者を削減し、進出する分野の新たな職務にはそれにふさわしい資格・教育を受けた労働者を雇用するという方法をとるのがまず考えられる道である。そこで、企業の外に、新たな職業能力を獲得するための職業教育訓練が発達することになる。多くの国での生涯学習はこうした学びのことを指してきた。従って、企業内での学びによって職種転換等が行われる日本型雇用が広く行き渡っていれば、生涯学習が仕事を離れた学びの場となるのもうなずけるところである。しかし、日本型雇用というのは一つの理念であって、実際にこれに当てはまるのは、大企業の男性正社員の範囲であった。非正規雇用者、あるいは女性は、日本型雇用にとっては周辺的な労働者であったし、また中小企業では理念としては共感しても、企業内教育訓練体制は十分でなく、時間も費用も余裕がない。さらに、次に見るように大企業においても変化は徐々に進んでいる。加えて、現在の技術革新の速さと変化の大きさを考えると、日本型雇用の持つ教育訓練力で対応しきれるのか、不安のほうが大きい。「社会人の学び直し」政策が前面に押し出されたのは、こうした認識があってのことであろう。日本型雇用は前述の通り、大企業、特に製造業の大企業に顕著に見られた特徴である。また、時代的には1980年代半ばあたりが一つの完成期だといわれている。その現状はどうなのか。「賃金構造基本調査」(厚生労働省)を用いて、従業員1000人以上規模企業の大卒以上の男性大企業での雇用管理の変化リクルート カレッジマネジメント210 / May - Jun. 2018労働政策研究・研修機構 研究顧問小杉礼子高等教育機関における「社会人の学び」と日本型雇用日本型雇用慣行の下での「社会人の学び」寄 稿

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