カレッジマネジメント210号
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59民主化の流れの中で政治的活動を始め、全国教育法案に対し、大学への完全な自治権付与、独立した学生組合結成の自由などを強く要求した。このような学生の要求を一部入れ、全国教育法は2014年9月連邦議会で一旦成立し翌月に施行されたが、なお大学自治権の程度が不足しているとして学生は運動を続けた。その後、2015年初めに行われた大規模な学生デモの要求を受けて、テインセイン前大統領が連邦議会に同法の修正を求め、同法は2015年6月に修正された。この修正後に各大学は大学憲章(University Charter)の策定を開始し、自治権の行使に向けた準備をしている。しかし、高等教育法など下位法(その他、基礎教育法、技術教育・職業訓練法、私学教育法)は調整に時間がかかっているため、2018年3月現在施行されていない。高等教育法が施行されると大学憲章は確定することになる。そもそも、ミャンマーの教育セクターにおいては、基礎教育・職業技術教育は教育省や労働省が管轄しているが、高等教育分野の管轄は歴史的な経緯から複雑である。同国の高等教育機関は全て国立で現在計169校あるが、近年は教育省、科学技術省、保健省、国防省等による13省管轄体制であった。この複雑な体制は、1990年代に多くの省の管轄下での大学設置を多数認可すると同時に、1996年に元々教育省管轄であった高等教育機関を分野ごとにほかの関連官庁の管轄に移すことによりでき上がった。しかし、2014年の全国教育法制定により、国防省などの管轄の大学を除き、教育省の管轄となっている。1988年の学生の反政府・民主化運動及びその弾圧後、当局は、学生の政治運動を鎮静化する目的で、一般大学の閉鎖と再開を繰り返し、また言論などに多くの制限を課してきた。その一方で、高等教育機会を補完するための遠隔教育大学(University of Distance Education)が1992年に設立され、社会人が働きながら高等教育を受けることを可能とした。2000年には高等教育機関は全面再開されたが、歴史的に政治運動の中心だったヤンゴン大学とマンダレー大学をはじめ高等教育の抱える課題とするエリート大学の学部は、学生の非政治化目的で、都市部から遠く離れた所に移転された。これらの大学は大学院のみの大学になったため、どうしても都市部で学びたい学部生は学部が残された大学等に進学することになり、学生と教員は長距離の通学・通勤を強いられ、疲弊し、必然的に教育の質は低下したのである。大学教員の待遇はといえばかなり厳しく、長い通勤による疲弊に加え、多くの授業の担当や研究費不足により研究が満足にできる環境になく、また給与は極めて低いため、副収入がないと生計を立てられない状況にある。さらに、大学教員には政府による異動制度により数年ごとに全国規模で動くため、1か所で落ち着いて仕事をすることが難しい。2017年時点での高等教育機関の在籍学生は約60万人であり、通学型大学に約20万人、遠隔教育大学に約40万人在籍しており、後者が3分の2を占める。通学型大学における教育の特徴としては、講義中心、暗記・試験重視、軍政の言論規制による学生の受動性と低い参加度等が国際機関により挙げられている。また、授業では英語を使う必要があるが、教員・学生とも英語力不足のため内容の理解が不十分となることからくる暗記・試験依存も問題とされる。なお、高校卒業資格試験の成績で振り分けられる専攻と学生の関心のずれにより学習意欲が低下してしまうことも指摘されている。さらに、大学の教育内容が理論に偏りがちで、社会や就職に必要な知識とスキルを得られず、実践的なキャリア教育や指導がないに等しいことから、大学在学中、中退後あるいは卒業後に語学学校、専門学校等で補足する傾向がある。教員の短期異動制度も質の高い教育の実現を難しくしている。しかしながら、学歴重視社会であるため、家族は実学よりもステータスとして大学を志向する傾向がある。遠隔教育大学の卒業生に対する政府や社会の評価は通学型大学と同程度か低いようである。2014年のミャンマー人の最終学歴は、男女とも8割強が高卒以下、男女とも2割以下が大卒以上であった。このように、ミャンマーにおいて知識やスキルを身につけるためには、複数の学校に同時にあるいは継続して通うという、言うなれば「教育のカスタマイズ」状態が存在する。この状態は通学型大学も遠隔教育大学に共通している。ミャンマーではこれまで小中高5+4+2制の11年間教育が教育改革の成果リクルート カレッジマネジメント210 / May - Jun. 2018学長対象高等教育改革ワークショップ(2014年)

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