カレッジマネジメント210号
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66大学はより良き方向に向かっているのだろうか。本連載を執筆しながら、常に問い続けてきた問題である。国公私立全780校(2017年5月1日現在)それぞれに改革の進捗や成果が異なるのは当然である。同じ大学においても学部・学科間で取り組みに差が生じ、同じ学部・学科内でも教員間に温度差があるのが実情であろう。学長を中心とする執行部が、意欲的な目標を掲げ、多様な施策を計画・推進し、自己点検・評価活動を通して進捗・成果を確認したとしても、個々の教員が自己の教育能力を持続的に向上させようとしなければ、加えて、教員間や教員・職員間の協働による教育の組織的展開が活発化しなければ、改革は画餅に帰すことになる。例えば、内部質保証、学修成果の可視化、アクティブラーニング等、今日の大学教育改革において重視される諸概念は、教育現場でどれだけ強く意識され、実践されようとしているのであろうか。いくつかの大学の自己点検・評価活動に外部委員として関わってみると、学長・副学長と学部長・研究科長の間にあった意識差や温度差が年々縮小し、必要性や方向性に関する認識が共有されつつあることを肌で感じることが多い。より根本的な問題はその先にあると言えそうである。つまり、大学における教育改革は、学部長・研究科長まで巻き込むことにある程度成功しつつあり、さらにその先にいる構成員をどれだけ広く巻き込み、教育現場を変えることができるかに、改革の重心を移すべき段階にあるのではないかというのが筆者の認識である。構成員を広く巻き込めていないとしたら、原因は何処にあるのだろうか。その問題の本質や構造を明らかにしない限り、有効な方法を導き出すこともできず、「現場が変わらない、教員が変わろうとしない」という無力感だけが広がることになる。そのためにも、一人ひとりの教員と教育現場の実態に、これまで以上に目を向ける必要がある。何かを変えようとすれば、あるべき姿を描くだけでは不十分である。現状を正しく把握したうえで、それに近づけるための道筋や手順を明らかにしなければならない。筆者は、理事・副学長や研究組織の長として管理運営に関わる一方で、ファカルティーの一員として、主として経営学分野の教育研究に携わってきた。全学的な方針を発する側にいながら、それらが現場にどう伝わり、受け止められているかを同時進行で実感する機会も体験した。一大学における14年間という限られた経験ではあるが、企業における実務と大学における管理運営という二つの経験を有しながら、教員として仕事をしてきたことで、教育現場を多少なりとも客観的に観察することができ、より良き変革に向けて何が必要か、自分なりの考えを持つことができるようになった。大学間、あるいは学問分野間で実態は大きく異なり、安易大学を強くする「大学経営改革」「現場が変わる」教育改革をどう実現するか──教育現場での経験を通して考えたこと吉武博通 公立大学法人首都大学東京 理事リクルート カレッジマネジメント210 / May - Jun. 201876教育現場の構成員をどれだけ広く巻き込めるか

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