カレッジマネジメント210号
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67に一般化することはできないが、現場を巻き込んだ教育改革を実現するための視点や手掛りの提供にはなり得ると考え、教育現場での経験を振り返ることにした。筆者は、国立大学が法人化される1年前の2003年4月、当時筑波大学に置かれていた「企画調査室」の教授として着任した。法人化の準備業務を含む大学改革が主たる任務であったが、全ての教員は学系という教員組織に所属することになっていたため、経営学分野の教員が所属する学系に籍を置いた。着任に当たり、企画調査室にポストがなくなった場合は当学系からも外れるという誓約書を学系長に提出させられた。雇用契約上任期は付されていないのに、機関の意思とは別に、教員組織の意思が存在することに一筋縄ではいかない大学運営の難しさを実感させられた。他の教員と同様に研究費も配分されたが、筆者の所属を快く思っていない教員、無関心な教員、大学執行部との繋がりを期待する教員等、反応は様々であった。その中で自分の授業の中で講義をしてみないかと誘ってくれた教員がいたことは幸運であった。企業であれば、人事は会社の意思であり、配属部署の意思でもある。少なくとも表向きは全員が歓迎し、仕事に慣れるまでは支援もしてくれる。「協働」が当たり前の一般の組織と大学の教員組織の隔たりは大きい。大学の管理運営に関わる中で、組織内で心ない言葉を浴びせられた教員の訴えを聞くこともあった。教育機関である大学で、なぜ互いを尊重したり、若手教員をエンカレッジしたりすることができないのだろうか。筆者が幾度も感じた疑問である。大学教員の多くはまじめで責任感があり、互いに協力し、円滑に物事を進めなければならないことも理解している。しかしながら、一度問題が生じると、組織内に軋轢が生じ、疑心暗鬼や相互不信が広がることで組織運営の健全性が損なわれ、それが常態化する。教員組織はそのような危うさと脆さを有している。そのトリガーとなる要因はいくつか考えられる。教員組織が内包する危うさや脆さ例えば、専門の異なる複数の学問分野で教員組織が編成されている場合、リソース(教員ポストや教授・准教授枠、予算、スペース)配分、授業負担等の調整、論文審査や研究業績評価等で、分野間の利害が衝突したり、基準が異なったりすることで、軋轢が生じることがある。また、有力な教授同士が対立し、他の教員がそれに巻き込まれたり、一部教員の不規則な言動が円滑な組織運営を阻害したりすることもある。近年のガバナンス改革においては、学長や学部長・研究科長等に権限を集中することで、より統制の取れた組織運営を目指すことが意図されているが、それだけで、教員組織がより良き方向に向かうのか甚だ疑問である。教員組織は、前述のような問題さえ生じなければ、あるいは仮に生じても早期に手を打てれば、少なくとも表面上は円滑に運営され、教員の負担やストレスも抑えることができる。そのためには、問題の発生や深刻化を抑制する仕組みが必要である。その一つが「組織運営のルールづくり」である。互いを尊重し、協力し合うこと等、当該組織において重視すべき要素を簡潔にまとめ、規範化する。新たに採用する教員に周知するとともに、教員評価においても、規範に照らして適切に行動したかを問う等して、その定着を図る必要がある。二つめは「相談役・調整役となるシニア教員の存在」である。学部長や学科長等の役職は教授昇任後の早い時期に経験させ、シニア教員が学部長・学科長を支えながら、組織内で生じる問題の相談役や調整役を務めるという考え方である。シニア教員が権威を振りかざすことで問題が深刻化するケースは少なくない。教員組織にも年代に応じた役割分担があってよいのではなかろうか。三つめは「組織運営への職員の参画」である。学部や学科の教員会議の運営等、職員に任せられるものは任せるほうが、手続きに則って効率的に処理できる可能性が高い。些細な事柄まで教員が決めようとすることで、負荷やストレスが増し、無用の軋轢を生じるリスクも高まる。問題の発生や深刻化を抑制する仕組みを構築リクルート カレッジマネジメント210 / May - Jun. 2018

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