カレッジマネジメント210号
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69リクルート カレッジマネジメント210 / May - Jun. 2018する現実であろう。それ故に、将来的にどのような教員構成を目指すのか長期方針を定め、自校にふさわしい教員とは如何なる教員か、期待する役割と要件を明確にしたうえで、そのような教員をどうすれば確保できるか、採用戦略を綿密に練り上げる必要がある。次に、教員による持続的な教育改善への取り組みと教育の組織的展開を促進するための方策について考えてみたい。教育の内容や方法は個々の教員の自律性に委ねざるを得ないとの前提に立てば、教員自身が不断の改善の必要性を認識するとともに、自ら主体的に教育内容を見直し、教育方法を学び、実践するような環境を整えていく必要がある。教育内容については、学生に如何なる知識を身につけさせるべきか、教員自身が問い続けることが大切である。大学が授ける知識が社会での活躍に直接結びつくことはむしろ稀であり、その意味で確かな答えは容易に得られないかもしれない。教員の問い続ける姿勢こそが、教育を豊かなものにするのではなかろうか。教育方法については、アクティブラーニング、ルーブリック等、様々な方法が紹介され、具体的な事例も学べるようになってきたが、その一方で、教えるべき内容が増え、授業時間が窮屈になってきたと感じる教員も多いのではないかと思われる。また、これらの方法を導入した場合の準備時間の確保も大きな課題である。以上のような認識を踏まえて、三つの方法を提案したい。一つめは、就職活動を終えた学生、卒業生、実務家等を交えて大学教育を振り返る場を、教育組織単位で年一回程度開催するという提案である。教育内容を問い直す一つの契機となることが期待される。二つめは、複数教員による共同授業の開講である。専門を超えた組み合わせ、年代を超えた組み合わせ、研究者教員と実務家教員の組み合わせ等、教員同士が協働し、互いの授業を学び合う機会を持つことは有益である。三つめは、教育活動に対する表彰制度を充実させることである。教育重視の姿勢を明示するとともに、表彰教員の教員が主体的に教育改善に取り組む環境を整える授業を学内公開することで、優れた取り組みを広く紹介することができる。教育現場での経験を振り返り、「教育は学生と教員が学び合う双方向のプロセス」であることを改めて感じる。複数の他校での授業経験を含め、授業における学生の反応、態度、発言やレポート、授業評価等を通して気づくこと、教えられることは実に多かった。「学ぶ心に火をつける」のは、教育段階に拘わらず教員の最大の役割の一つだが、高い目的意識を持って受講する学生から、興味を引き出すことが容易ではない学生まで、その幅は大きかった。同じ大学内でも学生の基礎学力や留学生の日本語力に差があるが、大学を超えるとその差がさらに広がり、同じ事柄を説明するのに何倍も時間がかかることがあった。私語を止めない学生、大半がコピペのレポート等に暗澹たる思いをしたこともある。その度に教育の質や質保証とはそもそも何なのか、自問を繰り返した。その一方で、学生の目の輝きが増してくると、こちらの気分も高揚し、テンポのいいやりとりができるようになる。とりわけ、職務を通した問題意識を持ち、自らの資金と時間を投入して入学してくる社会人向けの大学院での授業と研究指導は、教員の側も学ぶこと、刺激を受けることが多い。留学生や障がいのある学生から学ぶことも多かった。特に、後者については、障がいの種類に応じた特別の配慮も求められるが、ハンディを背負いながらも明るく学ぶ姿に力をもらった。教育改革を進める場合、まず国の政策と社会の動向を起点に物事を考えがちである。しかし、検討に必要な最も新鮮で多様な素材を提供してくれるのは目の前の学生である。学生と向き合い、学生を起点に物事を考えることが、教員間、教職間の協働にも繋がる。現場が自ら変革の必要性を感じ、主体的に変わろうとする。教育改革の主体を現場に担わせるための知恵が求められている。「学生」起点に協働し、教育改革に繋げる

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