カレッジマネジメント211号
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11リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018とが示されている。一方で、図の左側、すなわち雇用者数はそこまで多くないが、代替可能確率が高い職業にはブルーカラー業務が多く、既にテクノロジーによる代替が進んできている職業があるといえる。自動車製造工場や食品加工工場では多くのロボットが稼働しており、ファクトリーオートメーションは大きく進んできている。20世紀にブルーカラーで起きてきた自動化が、21世紀にはホワイトカラーで起こってくるというのが、この図から読み取れることである。政府は2030年の就業構造をどのように見ているのか。経済産業省では先述の職業のコンピュータ化可能確率に関する研究をもとに就業構造の試算を行い、職業別に従業員数の変化を推計している。図2-3の変革シナリオ(①社会課題を解決する新たなサービスを提供し、グローバルに高付加価値・高成長を獲得②技術革新を活かしたサービスの発展による生産性の向上と労働参加率の増加により労働力人口を克服③機械・ソフトウェアと共存し人にしかできない職業に労働力が移動する中で、人々が広く高所得を享受する社会)では、AI・ロボット等による代替確率が低いものを増加する職業、高い国が見る2030年の労働市場の姿ものを減少する職業と想定し、算出を行っている。前述した野村総合研究所の推計と同様に、卸売・小売業や製造業、そして各企業に存在するバックオフィス業務の一部はAIやロボットによる効率化・自動化が進み従業員数が減る一方で、IT業務は産業全般でIT業務への受容が高まり従業員数が年率2.1%増加、AIによる代替確率が低い上流工程や高付加価値サービスの提供が求められる営業販売、サービスに従事する者の数もそれぞれ1.2%、1.7%、1.8%と増加していることが分かる。ここで取り上げたいのは、決してこれまで存在していた職が失われるというAIを脅威として捉えるべきということではなく、今後需要が高まる、上流工程、IT業務、そして低代替確率の一部の営業販売やサービスといった職種に従事するための人材が果たして十分に育成されていくのかということである。これらの仕事はただ知識さえ学べば、エキスパートとして能力が発揮できるという職業ではなく、知識を用いて思考することが求められる仕事である。つまり、ただ理論を教育機関で学ぶだけではこれらの仕事に就き付加価値を発揮することができるということではない。学生がどのようなことを大学で学ぶべきなのか、将来自分の仕事がAIに代替されないためにはどのようなスキルを身につけるべきなのかを考えることが重要である。図2-3 職業別の従業員数の変化(伸び率) 平成29年4月産業構造審議会中間報告より ※2015年度と2030年度の比較産業構造・就業構造の姿とは特集 2030年の高等教育職業変革シナリオにおける姿職業別従業員数職業別従業員(年率)現状放置変革シナリオ現状放置変革シナリオ上流工程経営戦略策定担当、研究開発者等経営・商品企画、マーケティング、R&D等、新たなビジネスを担う中核人材が増加。-136万人+96万人-2.2%+1.2%製造・調達製造ラインの工員、企業の調達管理部門等AIやロボットによる代替が進み、変革の成否を問わず減少。-262万人-297万人-1.2%-1.4%営業販売(低代替確率)カスタマイズされた高額な保険商品の営業担当等高度なコンサルティング機能が競争力の源泉となる商品・サービス等の営業販売に係る仕事が増加。-62万人+114万人-1.2%+1.7%営業販売(高代替確率)低額・定型の保険商品の販売員、スーパーのレジ係等AI、ビッグデータによる効率化・自動化が進み、変革の成否を問わず減少。-62万人-68万人-1.3%-1.4%サービス(低代替確率)高級レストランの接客係、きめ細やかな介護等人が直接対応することが質・価値の向上につながる高付加価値なサービスに係る仕事が増加。-6万人+179万人-0.1%+1.8%サービス(高代替確率)大衆飲食店の店員、コールセンター等AI・ロボットによる効率化・自動化が進み、減少。※現状放置シナリオでは雇用の受け皿になり、微増。+23万人-51万人+0.1%-0.3%IT業務製造業におけるIoTビジネスの開発者、ITセキュリティ担当者等製造業のIoT化やセキュリティ強化など、産業全般でIT業務への需要が高まり、従事者が増加。-3万人+45万人-0.2%+2.1%バックオフィス経理、給与管理等の人事部門、データ入力係等AIやグローバルアウトソースによる代替が進み、変革の成否を問わず減少。-145万人-143万人-0.8%-0.8%その他建設作業員等AI・ロボットによる効率化・自動化が進み、減少。-82万人-37万人-1.1%-0.5%合計-735万人-161万人-0.8%-0.2%出所)経済産業省「新産業構造ビジョン」平成29年5月

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