カレッジマネジメント211号
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14リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018最後に、AI時代に求められるエキスパート人材について掘り下げてみたい。AI時代には、(1)AIを使いこなすITスキル・エキスパート、(2)AIが不得意な領域でスキルを発揮するヒューマンスキル・エキスパートの2種類のエキスパートが生まれると想定される。AI等のITシステムによる自動化が進むことで、ITスキル・エキスパートの需要は増大するとともに、活躍する場所も広がるだろう。AI人材として、よく挙げられるのはデータサイエンティストである。しかし、AI時代のITスキル・エキスパートは、データサイエンティストにとどまらず多岐にわたる。以下では、ITスキル・エキスパートがITスキル・エキスパート求められる3つの要因をひもときながら、それぞれの特徴を述べたい(図4-1)。①一つ目は、ITシステムを提供する企業(ITサービス業)の従事者である。経理や総務等バックオフィス、販売やマーケティング等のフロントエンドを問わず、企業のあらゆる業務プロセスがITシステムの上で実施されるようになるだろう。すると、ITサービス業で開発・保守・運用するエンジニアの需要が増える。このようなエンジニアは、情報工学を中心とした知識・スキルが期待される高度なITスキル・エキスパート人材である。②二つ目は、ITサービス業が提供する製品・サービスを導入した利用企業の従業員である。企業内インフラとしてのITシステムを利用・運用する人である。今後の企業内インフラは、インターネット上のクラウドサービスのように外部から提供されるようになり、個別企業が自社の設備として整備する必要が低下していくと予想されている。すると、利用企業のITスキル・エキスパートは、高度なIT知識・スキルまでは必要とせず、利用者としての基礎的な能力があればよい。むしろ、ITの基礎能力を持ちつつ、マーケティングや人材管理等の業務スキルの両方を兼ね備えることがメリットとなるだろう。③最後は、製造業・サービス業・小売業・金融業等、ITサービス業以外の業種の従業員である。今後は、全ての業種において、自社の製品・サービスにAI・ソフトウェア・IoT機器等が組み込まれるようになるだろう。このため、あらゆる業界で、ITに精通した製品開発・保守・運用の人材が求められるようになる。このような人材は、機器の製エキスパート時代へ4してくれるが、受領した情報に基づく最終的な決断や、クライアント対応、例外的なケースへの対処といった業務は人が担っている。人にとっては難しくともAIにとっては容易な業務は多く存在しており、そういった業務は現在の社会的評価の良し悪しに拘わらず、AIが代替する対象となりうる。とすれば、これまで以上にイノベーションを生み出す力やコミュニケーション能力、複雑なコンテクストを把握しながらコンセプトを構築していく力等、非常に抽象度の高い領域を人が担うことになるだろう。そのような活動を行う人材を育てるためには、あくまで例ではあるが芸術等の感覚や価値観に訴える分野や、データ上では共通点を見いだせない複数の概念から新たな概念を生み出すための教養分野、人と交渉したり信頼関係を深めたりモチベートしたりするための対人折衝スキル等に関する教育の重要性が高まっていく可能性がある。図4-1 IT人材の需要は3つの理由で増大する① ITサービス業③企業内インフラ  ・・・・・  金融業  小売業   サービス業② 製造業

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