カレッジマネジメント211号
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22リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018今日、世界の留学生移動は、より多様化し、拡大する傾向にある。今から15年前にオーストラリアのIDP(International Education Program)は、2025年までの留学生移動を予測した報告書※1において、留学生移動の計算指標とされる①教育の質、②雇用の展望、③費用、④個人の安全、⑤ライフスタイル、⑥入学のしやすさをとりあげ、主として英語圏の主要5カ国(米、英、加、オーストラリア、ニュージーランド)の留学生受入れを比較した。そのうえで、世界の留学生総数は、2003 年の世界全体の留学生総数211 万人が、2015年にはほぼ2倍の438万になると予測したが、アメリカのIIE(Institute of International Education)の統計によれば2015年には460万人になったとしている※2。他方、ドイツの国際教育調査団体であるICEF Monitor(International Consultants for Education and Fairs)は、2014年の時点での留学生数を500万人としており※3、いずれもIDPの予測を上回る人数を示している。留学生移動は、絶対数の増加だけではなく、多様化という意味でも大きな変化を見せている。IIE(2017:296)の分析によれば、世界で最も多くの留学生を受け入れているアメリカは、大学院レベルでは引き続き人気が高いものの、そのシェア率は2001年の28%から2017年には24%となっている。また2001年には、英(11%)、独(9%)、仏(7%)、オーストラリア(4%)、日本(3%)と続いていたが、2017年では英(11%)、中国(10%)、オーストラリア・フランス・カナダ(7%)、ロシア(6%)、独(6%)となっており、特に中国の台頭が目立つ。送り出しのほうでも、中国人留学生の存在は多くの受入れ国で首位となっており、次いでインド人留学生の数も増えている(図1参照)。ICEF(前出)は、中国、インド、韓国の三国で全留学生の1/4以上を占めていることを指摘している。IDP(前出)はまた、2025 年には2003 年の約3.6 倍に当たる769 万人になるとされ、2003年に全体の45%を占めていたアジア出身の留学生は、中国やインド出身の学生増加を含めて70%、そのうち特に東アジア出身者が留学生全体の47%となると予測している。近年では、アジア太平洋の国々が、送り出し国としてだけではなく、受入れ国として教育ハブの機能を発揮しつつある。特にアジア域内の交流が活発化していることが注目される。この傾向は既に2000年代に入った頃から見られたが、近年ではアジア諸国の高等教育の拡大や質保証の展開により、域内の学生移動はさらに活発化している。特に中国の牽引力は顕著である。他方、ブラジルやチリ等のラテンアメリカ・カリブ海諸国やアフリカ諸国の動きも目立つようになっている。ICEF(前出)によれば、ラテンアメリカ・カリブ海諸国は、若年層人口(15-24歳)が現在1億人を超え、教育の機会や、高等教育機関の質の向上、失業率低減が課題とされており、学生は海外留学を志向する傾向にある。またアフリカ諸国は、高まる高等教育需要に国内の高等教育の供給が追いついていないため、経済的に余裕のある学生は海外留学を志向する傾向にある※4。留学生移動は、かつてのように南側諸国から欧米を中心とする北側諸国の英語圏への移動だけではなく、多様化しているのである。上智大学 グローバル化推進担当副学長杉村美紀教育・学生双方の流動化が進む多文化共生時代の到来世界の留学生移動の動向と予測される変化世界の留学生はどの国で学ぶのか特集 2030年の高等教育寄稿
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