カレッジマネジメント211号
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25リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018の追求と、「誰一人取り残さない」教育の実現ならびに多文化共生社会に貢献するグローバル・シティズンの育成が目標とされている。このことは高等教育が育成すべき人材像でもあるが、同時にそこでは、各国の国際化とナショナリズムとのバランスの問題が顕在化している。2020年までに留学生を30万人とする計画を進め、高等教育の国際化を加速させようとしている日本にとっては、他国と同様に留学生受入れは高度人材育成を獲得するための重要な戦略であり、留学生の送り出しは日本人学生にグローバル・シティズンとしてのスキルや能力を獲得させる意義を持つ。しかしながら、日本の場合、最大の懸念は、「2018年問題」により、既に高等教育就学者の人数が地方を中心に急激に減少に転じ始めており、高齢化が急速に進む日本の地域社会の創生を大学がどう担うかということであろう。地方創生に焦点をあて2013年に開始された「地(知)の拠点整備事業」は、2015年に「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業」に発展して展開されており、国立大学の第3期中期計画に基づいて、国立大学86校のうち55校は「主として地域に貢献する大学」を選択している。従来の国際化や留学生政策は、これまで学生数減少を補う留学生招致といった文脈で考えられたり、あるいは地方創生とは全く切り離して考えられることが多かった。しかし、それぞれの地域社会の特性や求められる人材ニーズをふまえると、地域創生に軸足をおく中で、地域からグローバル社会との繋がりを産学連携等の活動を通じて考えるようにする取り組みこそ重要であると考える。既に国内のグッド・プラクティス※8にみる通り、地域に根差した大学だからこそ展開できる特色ある内容を持つ実践が志向されている。その場合に考えるべき新たな教育モデルのひとつに、国際的にも注目されている「国内における国際化(internationalization at home)」としての国際共同研修がある。これは、国内にいながらにして多文化共生を学ぶモデルであり、海外の大学でもしばしば議論される。特に今日、急速に普及し始めているオンライン教育の拡充により、そこでは新たな教育機会と学び方を柔軟な制度のもとに展開す日本の留学生政策と高等教育の方向性ることが可能になる。イギリスでは既に、留学生の6割はイギリスの国外にいながらイギリスのカリキュラムを履修している学生であるという※9。こうした新たな学びの形態は、経済的理由や社会情勢、あるいは科目履修上の制約等様々な理由で留学機会を得ることのできない学生に、異文化を持つ国外の人々との交流や学びの機会を国内にいながら持つことを可能にする。日本においても、平成30(2018)年度の大学の世界展開力強化事業においては、オンライン国際協働学習(Collaborative Online International Learning: COIL)を利用した日米間の大学協力の推進が両国によって実施されることになっており、今後、より柔軟な取り組みが拡大することが予想される。ここには、高齢化が進む中で人々の生涯教育の機会を拡充する可能性も含まれる。また大学間の国内連携・協力も、国内の地方創生と国際化を分断することなく、大学と地域社会の活性化を促すと考える。財政や人材、施設面で、それぞれの大学の持つリソースが限られる中、それぞれ特色が異なる大学が教育研究プログラムを相補的に組み合わせて活動を展開することは、国際社会においても「国際連携大学」としてプログラムや教育提供主体の移動(IPPM:前出)が進み、あるいは地域のネットワーク化がマクロレベルで進んでいるように、ミクロレベルでの流動性を促す。そこでは、各大学単独では展開しにくい留学生交流も、特定の目的と戦略を持った連携のもとに協力することで、従来、留学生数の量的な拡大と交流の活発化を中心に考えられてきた高等教育の国際化に新たな可能性を付与する。そのことは、高等教育機会の公正性を担保し、機会の拡充に利する効果があるとともに、知の創造を担う高等教育機関としての社会的責任にもつながると考える。※1Justin Brown, Anthony Bohm, David Pearce, Denis Meares, et al. "Global Student Mobility 2025 : The Supply Challenge" ISBN: 0864030525 (2003) Available at: http://works.bepress.com/justin_brown/20/(2018年5月3日最終閲覧)※2IIE (2017) Education at a Glance. ※3ICEF (2015) The state of international student mobility in 2015. http://monitor.icef.com/2015/11/the-state-of-international-student-mobility-in-2015/(2018年5月5日最終閲覧)※4同上ICES (2015).※5EHEA Ministerial Conference (2012) Mobility strategy 2020 for the European Higher Education Area (EHEA).※6Knight, J. (2017). “The new faces of transnational higher education”. University World News. No.480, 27 October, 2017.※7『平成29年版情報通信白書』第1部、107頁※8リクルート『カレッジマネジメント:特集 地学地就の教育』199号 (July-August, 2016)※9Universities UK International (2018). The Scale of Higher Education Transnational Education 2015-16: Trend Analysis of HESA Date. January 2018. p.2.世界の留学生はどの国で学ぶのか特集 2030年の高等教育

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