カレッジマネジメント211号
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27リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018「Cの10年」という呼称がふさわしいように思える。“Collaboration(協力)”、“Collectivity(集団性)”、“Communities(コミュニティ)”、“Commons(コモンズ)”や“Cloud(クラウド)”等、インターネットを中心としたICTの活用に関連した今日的なキーワードの多くが、偶然にも「C」で始まっているからだ。では、来たる2020年代は、何と呼ぶべきかを考えると、これも独創的定義となるが、「Pの10年」であると提唱したい。AI技術等の進歩によって可能なる高度な “Personalization(個別化)”や “Preference(個人的好み)”への対応、さらにビッグデータに基づく様々な “ Prediction(予測・予知)”、“Proactive(先見的に行動する)”等のキーワードが想起されるが、特に教育においては、“Project-Based(プロジェクト型)”や“Problem-Based(問題解決型)”の学習(PBL)、“Performance-Based(パフォーマンスに基づいた)”成果主義的な学習評価等が、今後さらに重視され発展していくと考えられる。またゲーム化(Gamication)やVR(Virtual Reality:仮想現実)・AR(Augmented Reality:拡張現実)の利用等によって、より“Playable”に(実践的に楽しみながら)学ぶことも、これまで以上に一般的になっていくだろう。また、これらに伴って、“Privacy(プライバシー)”保護のために、個人情報管理等の厳格化や法的・制度的整備等が必要不可欠になっていくことは言うまでもない。年のTimes世界大学ランキングでは、22位のシンガポール国立大学を筆頭に、100位以内に11校(日本からは2校)がランクインするまでに至っている。このようなアジアの大学の列強の中で、ICTを利用した学習やオンライン教育に注力していない大学は見当たらず、大学の総合的強化と大学教育におけるICT活用の推進には、戦略的に強い連関がうかがえる。2004年1月30日付のアメリカの高等教育専門紙“The Chronicle of Higher Education”に、当時イリノイ大学教授のJ.M. Unsworth氏が寄稿した“ The Next Wave: Liberation Technology”と題された論考の中で同氏は、1990年を「Eの10年(E-Decade)」、2000年代を「Oの10年(O-Decade)」と名付けている。当時のインターネットの普及・利用状況を鑑みれば、やや欧米中心の歴史的尺度にはなるものの、それまでは研究機関や軍によって限定的に実験利用されていたインターネットが、1990年代に社会一般に開放されると、産学官や民間において、e-コマースやe-ビジネス、e-ラーニング等が台頭し急速に普及した。これが、「Eの10年」である。これに続く2000年代は、電子化された情報や知識、データが、インターネットというグローバルな共通基盤の上で、盛んにオープン化され共有・利用され始める「Oの10年」となった。オープンソース、オープンシステム、オープンスタンダード、オープンアクセス等の概念形成や実践も活発に行われた。また高等教育においては、前述のオープンコースウェアをはじめ、教育的なテクノロジー、コンテンツ、知識等をインターネットを通じて無償で公開・提供するオープンエデュケーションが、大きなムーブメントとして世界的に広がったことは、まだ記憶に新しい。ここまでは、Unsworth教授による時代的定義であったが、それでは、現在既に終盤に差し掛かっている2010年代は、何と呼ぶべきだろうか。私個人の独創的定義としては、ICTの社会と高等教育への影響:過去30年間の潮流と今後10年間の展望●Eの10年: 1990年代*e-Commerce, e-Business, e-Publishing, e-Learning *Gopher (1991), WWW (1991), Mosaic (1993), XML (1996), WebCT & Blackboard (1997), etc.●Oの10年: 2000年代*Opensource, Open System, Open Standards, Open Access, Open Education, Open Research, Open Innovation*WEB 2.0, Wikipedia, YouTube, Blogs, OpenCourseWare, iTunes U, etc.*“Liberation Technology” (J. M. Unsworth, 2004) テクノロジーの社会的影響(1990〜2020年代)●Cの10年: 2010年代*Collaboration, Collectivity, Communities, Commons, Cloud Computing*Social Networking Service (SNS), Twitter, Social Learning, Meta University●Pの10年: 2020年代*Personalization, Preference, Prediction, Proactive, Project-based, Problem-based, Performance-based, Playable, PrivacyICTで高等教育は どう変わるのか
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