カレッジマネジメント211号
28/78

28リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018MOOCがグローバルに普及し始めてから5年以上が経過し、世界におけるMOOCの数は約9400講座、提供に関わる大学数は800校以上、MOOC受講生も約7800万人に達している(2017年のClass Centralの調査結果に基づく)。当初MOOCは、それまで主流であったオープンコースウェアとは異なり、オンラインでの講義受講・学習評価や修了証による学習成果の認証等により、より実践的・効果的な教育を無償で提供する「オープンエデュケーションの新たな方法・アプローチ」と見なされていた。しかし、程なくしてMOOCは、前出のSPOCやその他のオンライン教材・学習環境の利用等も巻き込みながら、反転学習やブレンディッド学習等を促進し、世界中で既存の教室における対面授業・学習のあり方を刷新していく原動力と化していった。さらに、MOOCを利用した新たな単位や学位、専門資格取得のためのシステムや制度づくりの動きも活発だ。例えば、米国のアリゾナ州立大学はedXと連携し、 “Global Freshman Academy”(以下、GFA)という、MOOCを受講するだけで同大学の1年次に必要な単位を全て取得できる新たな制度を2016年にスタートさせた。これは、同大学がGFA向けに提供しているMOOC(2018年5月現在、13講義)を受講し、各授業科目の修了証を取得した後に学費を払うことによって、その授業科目に付与されている同大学の単位が取得できる仕組みで、1単位ごとに払う学費は、通学・対面受講で同等の授業を受けるのに比べて約6〜7割も廉価になっている。GFAによって、同大学の1年次に必要な単位を全てMOOCを通じて取得した後は、正式な入学手続きを経て、2年次から同大学のキャンパスで通常の授業を受けられる。つまり、最初の1年は世界のどこにいても、オンライン教育でアリゾナ州立大学の授業が受けられかつ学費も低く抑えられるため、地域的・経済的な格差を超えて正規の大学教育を受けることが可能なのだ。また、GFAを通じて取得した単位は、アリゾナ州立大学と単位互換協定を結んでいる多くの他大学に編入学したり、他大学から同大学へ正規留学生として短期留学した場合のように単位互換を行うこともできる。大学院教育においては、やはり2016年にMITがedXと連携し、既存の修士プログラムの約半分の単位取得をMOOC受講に置き換え、“MicroMasters”(マイクロ修士号)という新しい学位を授与する制度を開始した。MITで最初にMicroMastersを始めたのは、“Supply Chain Management” (以下、SCM)という修士プログラムで、修士号に必要な90単位中42単位を前出のGFAと同様にMOOC受講を通じて取得することで、MicroMastersの学位を取得することができる。さらに、MicroMasters課程で好成績を修めた人は、MITのSCM修士プログラムへの編入学が認められるため、世界中からより優れた人材を大学院に集めるための効果的な選抜システムとしても期待されている。2017年6月には、SCM MicroMastersに必要とされるMOOC5講座を世界中から1900人以上の受講生が修了し、そのうち622人がSCM修士プログラムの編入学選抜への応募を許可され、最終的には40名が入学を許可された。この40名中30名は米国外からの留学生で、平均年齢は32歳、平均9年間の就業経験を有していることも公表されている。ちなみに、2017年度のMITの通常のSCM修士プログラム(2年制課程)にかかる学費等は、総計7万1000ドル(約780万円)だが、SCM MicroMastersを取得し編入学した場合は、総計4万2553ドル(約468万円)となり、約4割もの負担減となる。現在edXと連携して、世界のトップクラスの24の大学院から約50のMicroMastersが提供されているが、その数は今後も増加していくことは確実だ。2011年に、現在のMOOCの原型となる大規模公開オンライン講座「人工知能入門」を開講した当時スタンフォード大学教授のSebastian Thrun氏が、同年に立ち上げた教育ベンチャー企業Udacityは、トップ企業と提携し、IT関連の各先端分野の専門家によるオンライン学習サービスを提供している。特徴的なのは、特定の職種に必要なMOOCによって開かれた高等教育の『パンドラの箱』『仮想学位』の衝撃:Micro Credentialsが変える高等教育システム

元のページ  ../index.html#28

このブックを見る