カレッジマネジメント211号
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31リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018ーを大学が調整する。既存の大学のカリキュラムが、卒業が近づくにつれ、教員の趣味的な専門分野の知識習得に追われ、就職先ではほとんど役に立たないケースが多くなるのに対し、自分の進みたい分野のプロジェクトにより没頭していけるミネルバ大学のカリキュラムは、学生、採用側の双方にとって理想的である。ミネルバ大学は、既存の教室では実現不可能な学習効果の高い教授法を最新技術の活用によって実現した。「100%アクティブ・ラーニングを実現する」とミネルバ大学が主張する学習プラットフォームは、全員が同時参加するオンライン・セミナー形式で行われる。授業中のディスカッションを活性化させる様々なツールや教員のファシリテーションを容易にするだけでなく、各学生の発言から学習目的の習熟度を判定し、高頻度の事実に基づくフィードバックを可能にしている。授業は設計、実施、評価、分析まで全て統合されたプラットフォーム上で行われ、個別の学生の学習習熟度データが蓄積されていくため、教員間での教授法の改善も感覚ではなく、事実に基づき、高頻度で実施できる。この結果、ミネルバ大学の学生は短期間で既存大学を大きく上回る思考・コミュニケーション能力を習得できる。授業をオンラインで行うため、学生・教員共に同じ場所にいる必要がない。この利点を生かし、学生が4年間で世界7つの都市に実際に居住しながら現地で様々なプロジェクト学習・インターンを実施できる仕組みを実現した。オンラインで授業を提供するのに、全寮制にする理由は、様々な国から集まった学生達が各都市で感じたことを共ころが、OECDの調査※3によれば、海外留学経験者はわずか2.5%で、その約7割が欧米・オセアニアに集中している。将来のリーダーになるべき学生達はかなり偏った異文化体験をしている。トップクラスの大学は多様な学生に門戸を開いていると主張しているが、留学生比率は10〜15%程度だ。さらに米国のトップ校を調べてみると、定員の約半数は年間800万円以上の学費・生活費を奨学金なしで払える超富裕層で構成されている。家庭の財務状況に関係なく合格基準を設置しているのはトップクラスの大学でも僅か5〜6校で、多くの学生が学生ローンを利用して学費・生活費をまかなっている。こうした大学の課題は米国だけでなく、日本でも同様の課題がある。ミネルバ大学は先に述べた4つの課題に対し “あるべき姿”をゼロから組み立てた。学生の社会に出るための準備という課題には、「未知の領域でも適切な意思決定を導ける思考・コミュニケーション能力」を養成しつつ、学生が自ら進みたいキャリアの専門性を、外部の実社会から隔離されたキャンパスではなく、将来の職場となり得る学外の協力機関とのプロジェクト学習の機会を豊富に与えるカリキュラムを提供している。1年時に全員が同じ必須科目を習得し、2年時からは自らが進みたい分野について学習支援をしてくれる教員、必要に応じて外部のサポータミネルバ大学が注目されている理由ICTで高等教育は どう変わるのか比較項目ミネルバ大学既存の大学授業の準備・毎週、教員ミーティングを実施、学生の習熟度に合わせて授業内容を調整・授業設計は各教員の自主性に大きく依存し、チェック機能も脆弱授業形式・全授業が19人以下のセミナー形式・主に大教室での講義形式授業の進行・反転授業・学生間のディベート・グループ作業・ディスカッションが主体(教員が話せるのは10分以内)・教員による一方通行の情報伝達・学生とのやり取りは質疑応答評価方法・事前提出課題・授業中の学生の発言をルーブリックで評価・事前・事後課題・定期テスト評価のフィードバック・毎授業後、学生の各発言内容・全授業が録画され、見直しできる・質問のある学生には個別対応・授業の録画は原則不可図表1 ミネルバ大学と既存の大学のカリキュラムの違い異なる分野から要件を満たす科目を自由に履修同じ科目を全員が履修履修自由度(大)第1−2学年既存の大学ミネルバ大学第3−4学年履修自由度(なし)履修自由度(小)履修自由度(大)指示する教授の専門分野の科目と研究活動を履修学生の専攻分野・研究活動を指導できる教員を任命する図表2 ミネルバ大学の授業と既存大学の授業の比較

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