カレッジマネジメント211号
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37リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018らには、社会人・職業人としての教養や職業人に共通の能力(学士力や社会人基礎力)等の意味での「幅広さ」も含まれるのだろう。しかしながら職業現場においては、それらの「幅広い」知識や理論・教養等は、特定の職業が直面する現場の課題に動員され効果を発揮できて初めて意味を持つ。ある分野全般の知識を身につけていたとしても、その分野の現場における「新しい現実」は、分野の特定の職種に深く関連して生起してくる。対応できるのは特定の職種の専門家なのである。従って、職業教育において、理論や知識、職業人共通の人間的諸力の教育は、具体的に持ち込まれ力を発揮することになる「場」の想定=「特定の職業との関連」なしには、「実践性」のない教育に留まってしまうだろう。一方また「特定の職業のための教育」において、「理論」や「分野共通知識」を全く教えない等ということはありえない。さらに「職業人共通の能力」については、専門的な学習と一体的に修得され、現場実習(臨床実習を含む)では、実際にそこで働くことになる現場で、コミュニケーション能力や問題解決能力が試されているわけである。つまり「幅広い職業人養成」教育は、それ単独では完結した職業教育類型というより、特定の職業直結型教育の前段階の準備教育か特定の職業に就くことを前提としない就職一般の準備としての職業教養教育として位置づけられるものだろう。さて専門職大学は「特定の職業のための」教育を軸に職業教育体系を打ち立てる中心になりうるのだろうか? これには現状では残念ながらいくつかの疑問符を付けざるを得ない。ⅰ)まずは今回の専門職大学の申請にあたり申請分野を学術体系によるものにした点。専門職大学は特定の職業のための教育であるなら、職種・産業に対応した職業教育の分類が存在し、その分類によって申請分野や学位体系が定められるのは当然のこと。また専門職大学院と同様、分野別認証評価も必須だが、職業教育の分野分類を整備する必要性の確認もそのための指針も示さ専門職大学の可能性れていない。ⅱ)内閣府教育再生実行会議第5次提言は、新たな高等職業教育機関について専門高校との接続に言及していた。しかしその後現在に至るも、専門高校や専門職大学院、専門学校との接続について明確なメッセージが発信されていない。ⅲ)大学においても「専門職学科」を設けることができるとした点。法的な整合性はともかく、これでは大学と専門職大学の学校種としてのミッション上の違いがあいまいになり、専門職大学が職業教育の核という学校種イメージを持つのは難しくなるだろう。とりわけ前記ⅰ)、ⅱ)は、職業教育体系化において重要な課題であり、早期の対応が望まれる。ところで専門職大学では、「幅広い職業人養成」教育における理論や分野共通の知識、職業人共通の人間的諸力や態度にも一定の単位を割り当てている。しかしながらそれらは、特定の職業に向けた「専門性の高度化」「実践力の強化」という課題に関係づけられ、統合化されることになっている。この関連づけは専門職大学の勘所であり、これから認可される専門職大学による統合化への挑戦と成果に注目したい。現在開かれている中教審大学分科会将来構想部会の議論を見る限り、高等教育段階において全体として職業教育をどう位置付けるかという論点は明確でなく、職業教育は、個々の学校種の役割の強化という規定枠の中で取り上げられているように思える。「特定の職業のための教育」の現勢は、高校生、社会人、留学希望者の支持を得て、今後とも盛んな状態が続くだろう。また職業実践専門課程と専門職大学が示した各職種におけるコンピテンシーに基づく職業教育類型は明確で、ほかにモデルは見当たらない。今こそ労働力減少に対する人材流動性向上という国家的課題に応え、「特定の職業のための教育」を軸に、学校種を超えた高等教育段階における職業教育の位置づけと職業教育体系の構築に向け歩み出す時ではないだろうか。2030年に向けて職業教育の方向性は特集 2030年の高等教育

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