カレッジマネジメント211号
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40リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018人材育成システム、の4点を挙げている。組織と人事は互いに強い影響を与え合う相互連関の関係にある。いかにうまく組織を設計できたとしても、それを担う人材の能力や意欲が低ければ、組織は十分に機能しない。その逆に、優秀な人材を確保できたとしても、組織の設計に欠陥があり、やり甲斐を感じにくい仕事、非効率な処理方法などが続くと、モチベーションも低下し、成長実感も薄くなる。組織と人事の一体的な改革が不可欠な理由はこの点にある。そのうえで、早急に着手すべき具体的な改革課題について考えてみたい。まず、教育の質を高め、研究力を強化するためにも、教員が教育研究に専念できる環境を早急に整備する必要がある。管理運営を中心に教員の業務負荷が年々増す傾向にあることは様々な形で指摘されている。教育内容や方法の見直し、組織としての教育力を高めるための教員間の協働や職員との協働等は、これらに取り組む教員の側に物理的・精神的ゆとりがなければ、容易には実現しない。そのためにも、教員の業務を総点検し、教員自らが行う業務を厳選・重点化したうえで、判断や処理を思い切って職員に移管すべきである。移管される側の職員についても、業務の棚卸しを行い、廃止や簡素化を進めるとともに、RPA(Robotic Process Automation)の導入を含むIT化を推進し、業務を抜本的に改革する必要がある。RPAについては、深刻化する人手不足と働き方改革を追い風に、IT関連企業が積極的に事業展開しており、導入する大学も出始めてきた。事業者任せの安易な導入は避けるべきだが、定型業務処理の大幅な省力化・迅速化が期待できる有力な手段と考えられる。これらの取り組みにより捻出した時間を、より高度な判断業務に振り向けることによって、職員の成長が促され、組織としての課題解決力も高まることになる。教育研究に専念できる環境と職員業務の高度化これらは主として「業務」に着目した改革課題であるが、「人」に焦点を当てた課題についても並行して取り組む必要がある。大学の競争力を構成する様々な要素の中で、最も重要なものは教員の教育研究力であろう。優れた教員の確保という点で、採用が決定的な意味を持つことは前号でも述べたが、採用後の育成のあり方も重要な課題である。大学教員ほど仕事の成果や組織への貢献に大きな個人差がある職種は他に見当たらない。研究業績も高く、教育や管理運営に対する貢献度が高い教授と、過去何年も研究業績がなく、貢献度も低い教授が同じように処遇されるという不合理は、どの大学にも存在するであろう。報酬や研究費の源泉が学生納付金や税金であることを考えると、このような状況の放置は許されないはずである。大学を取り巻く環境の悪化はこの不合理を解消する好機でもある。改革を標榜する以上、腹を括ってこの問題に取り組むべきである。課題の一つは評価である。教員評価制度については、法人化以降の国立大学で導入が進んだのに対して、公立や私立はやや慎重のようである。国立を含めて教員評価制度を導入した大学の多くは、教員の自己点検を通して教育研究水準の向上を促すことを主たる目的としている。給与・賞与への活用も進みつつあるが、水準向上自体は教員の意識に委ねられているのが実情と思われる。評価を通して、①顕著な業績や顕著な貢献に報いる、②大多数の平均的な教員の活動に刺激を与える、③業績や貢献に著しく問題がある教員にペナルティを課す、という3点の実現は目指すべきであろう。加えて、評価を対話の機会として積極的に活かすことが大切である。学部長や学科長が当該教員の考えや活動を理解するとともに、学部・学科としての期待や要望を伝える。業績や貢献を讃えると同時に、他方で問題があれば率直にそれを指摘する。評価を過度に精緻化することなく、相互理解に役立てる発想が重要である。「大学と教員の新たな関係」の構築が必要

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