カレッジマネジメント211号
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49リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018ここまで触れていない学部に関しても、これまで手薄だった、ものづくりやハード面の教育研究の強化を試みたり、ナノテクノロジーに関する教育研究の強化を試みたりと、新しい分野や領域を模索する動きも生じている。教員採用時にも、そうした新しい分野を切り開くための人事を進めるように、徐々にシフトしてきている。このような、先を見据えた動きの例のひとつとして、ここでは新設の大学院をご紹介しよう。社会人教育・リカレント教育の体制も整えておかねばならないとの考えから、2018年3月に大学院京都文化学研究科の認可申請を行った。文化学部の京都文化学科を母体とする、定員10名、通信制の大学院である。学内に置かれている日本文化研究所では、京都商工会議所との連携のもと、京都検定1級取得者を特別研究員として迎え入れており、既に100名以上の実績を重ねてきた。2021年度の本格移転を目指して、文化庁移転が進行中であることもあり、自大学の強みを生かし、京都の地における学習ニーズにいち早く手を打った。近畿・京都エリアの中で中堅的なポジションを占める京産大としては、地域で活躍する人材を輩出することで貢献する。また、京産大が持つ強みを生かすことができ、オンリーワンのポジショニングが可能な領域で闘う。この考え方が、「未来志向」に基づく様々な改革に臨む大城学長の語りの中に垣間見える。これからの京産大を取り巻く環境を見据えると、教職員の意識改革を引き続き行っていかなければならないと大城学長は感じている。「『神山の大将ではあかんよ』と、教職員には伝えている」と語る。京産大といえば、例えば、キャリア教育やコーオプ教育で既に評価も得られている(本誌187号参照)。『Nature』や『Science』への掲載論文数は私立大学で1位であった(2014年度)ことも記憶に新しい。しかしこれらの評価のみに頼るのではなく、より盤石な組織づくりを志向している、と表現したら過言であろうか。大城学長は教職員との対話の中で、京産大が他大学よりも有利なポジションにいると認識していることが推察される発言を聞くことがあった。「でも、偏差値等を見ると、それらの他大学にとっくに負けている。そうした事実はきっちり見ないといけない」。「うちの本当の強みはどこにあるか、まずは客観的に見る。見た中で何をアピールするか」(大城学長)。京産大を見ていると、未来は予測するものではなく、むしろ現状の徹底的な把握とそれに基づく次の一手の模索(例えば、学生数の増加による財政基盤の強化、他大学にない分野や社会情勢を踏まえた分野の拡大、1学科制による広く学べるカリキュラム改革等)によって作り上げていくものとして捉えたほうがよいのかもしれないと、そんなことを思わされた。思えば、「道」とは面白いものである。作った人のことが忘れ去られるほど時が経っても、「道」は「道」であり続け、そこを便利に、あるいは安全に通ることを許してくれる。果たして、大学改革も「道」にたとえうるものかもしれないというのは、言い過ぎだろうか。本稿前半で『神山STYLE 2030』の策定は「2015年の2月頃に始まった」と書いた。これは半ば正しいものの、京産大の改革の道のりをふり返れば、半ば正しくはない。『神山STYLE 2030』の策定以前に、旧グランドデザインの検証作業があった。グランドデザイン進捗検証委員会より2014年9月に『グランドデザイン』の達成状況にかかる答申が出され、この結果は『神山STYLE 2030』に引き継がれていった。『グランドデザイン』の存在とその検証過程は、『神山STYLE 2030』の生みの親であり、かつそれを受け入れる土壌になったことだろう。どの道も誰かが作ったものである。『神山STYLE 2030』も『グランドデザイン』同様に、また次のプランのための前提となっていくことだろう。その時に至るまでに、京産大は今回開かれた道をどのように踏破していくのだろうか。194号では「今秋の創立50周年記念式典では次代を乗り切るための戦略的な将来像が提示されるにちがいない。引き続き注視したい。」と記して稿が閉じられた。本稿では「次代を乗り切るための戦略的な将来像の実現に、全学を挙げて取り組まれている。果たしてどこまで飛躍していくのか、引き続き注視したい。」と記して稿を閉じたい。次代に向けた戦略の道筋(立石慎治 国立教育政策研究所 高等教育研究部 研究員)事例②特集 2030年の高等教育

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