カレッジマネジメント211号
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56リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018力の強化、多様性を確保しながら、質の保証を実現していくという方向に進んでいくのではないか。もう一つの視点が、高等教育機関としての大学の機能強化である。現在進行している高大接続改革では、2020年の入試改革が注目されがちだ。しかし、本質的には高校、大学、入学者選抜を一体的に改革していく教育改革である。この教育改革のポイントは、次期学習指導要領の中にある。そこには「2030年の社会と子供たちの未来」という言葉が入っている。私はこの言葉を非常に重視している。大きく社会が変化する予測が困難な時代に、どのようにして子供たちが自らの生涯を生き抜く力を培っていくのか、という視点から“学力の三要素”について、各学校段階を通じて育成しようとしているのである。2020年から学力の三要素を育むため、大学入学共通テストが導入され、個別選抜の改革もスタートする。しかし、本格導入は新しい学習指導要領で学んだ高校生が受験する2024年になる。その時には、高校で「主体的で、対話的で、深い学び」によって学習してきた学生が、大学に入学してくる。そうした学生を、大学はどのように高校から引き継いで、さらに育成して社会に送り出すのか。がっかりさせない教育ができるかが大きなポイントとなる。そのための3つのポリシーの再構築であり、内部質保証システムの構築であり、IR(institutional research)による検証が必要になってくるのである。2024年に入学してくる新学習指導要領で育った学生が社会に出るのが、2029年。まさに、今回展望した未来は、彼らにとっては当たり前の社会なのである。図2は、私が作成した私立大学のセグメント別競争戦略である。以前から作成しているものを、2030年バージョンにアップデートしたものである。横軸に一学年の定員規模、縦軸に延べの志願倍率をとった。事業団の調査によると、2017年度の私立大学の平均倍率は8.13倍であるため、8倍以上を「高倍率」、3倍を切ると定員割れの可能性が高いことから、「低倍率」としている。セグメントとしては、大きく4つに区分される。・マーケット・リーダーの戦略まず、右上の大規模・高倍率は、ほぼ都市部に集中する「大手総合人気大学」である。マーケティング上でいうと、「マーケット・リーダー」というポジションになる。ここは、国内におけるいわゆるブランド校であり、経営破綻の恐れはないが、グローバル化が進む中で、海外の有力大学との競争に対応することが重要課題になる。その意味では、ダイバーシティ化にいかに対応していかが課題となる。近隣の学生だけでなく、地方の学生、社会人学生、留学生の獲得等によって、どの様に多様性を担保するかが一つのテーマとなる。また、日本の高等教育市場は縮小傾向だが、アジアやアフリカ等振興国においては成長マーケットとして位置付けられている。特に台頭著しいアジアの大学との学生獲得競争は、さらに激化することが予想される。留学生を呼び込むだけでなく、海外キャンパスへの挑戦、いわゆるオフショア戦略も検討していくことが必要になっていくだろう。・チャレンジャーの戦略中央に位置するのは、「中規模・中倍率大学群」。マーケティング上でいうと「チャレンジャー」のポジションとなる。このセグメントは、現在は中堅大学として安定しているが、将来の人口減少を見据えると、志願倍率に下方圧力がかかるため、生き残りをかけた改革が重要課題となる。このセグメントは、地元の公立大学との競合度合が高い。今地方において、私立大学の公立化が進んでいる。こうした動きに対して、私立大学としてどのように差別化するのかも大きな課題だ。さらに、付属校を持つ場合は、大学のブランド力が低下すると付属校の募集悪化、付属校からの内部進学者の減少、という問題にⅡ.教育改革への対応Ⅲ.経営戦略の展望高大接続改革が本格化、問われる大学の姿勢大学のポジションを見据えた経営戦略が重要

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