カレッジマネジメント211号
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59リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018これまで見てきた通り、2017年と比較すると、18歳人口が2030年には16万人、6人に1人が消える状況になる。どう考えても、全ての大学が現状通り生き残ることは叶わないだろう。留学生の獲得、社会人の学び直しという新たなマーケット開拓を進める一方、高等教育全体のシステムとしての規模の縮小と、地域配置、そして知識基盤社会を支える教育・研究の高度化を同時に進めなければならない。その上で、個々の大学は生き残りのための改革を進めていくことになる。その際、重要なのは、各大学の「本学ならではの価値」は何かということである。図3は「本学ならではの価値」をベースに置いた、経営戦略の概念図である。私立大学には、建学の精神や教育理念があり、創設者が私財を投じ、将来に必要な人材を育成するために、強い思いで設立されている。それは必ずしも偏差値だけでは表されない、多様なものである。言い換えれば各大学の「存在価値(レゾンデートル)」とも言えるだろう。社会が大きく変化する今だからこそ、改めて存在価値を見直す必要がある。「本学ならではの価値」を構築するために、将来に向けてどのような特色や個性で勝負していくのか、ベンチマーク校はどこか、未来を担うどんな人材を育成するのかを、根本から見つめ直す好機ではないだろうか。国が言うからではなく、主語を“本学として”どうしていくかの意思決定が重要になる。そのために、よりどころとなる中長期ビジョンやグランドデザイン、中期計画の必要性が言われているのである。そして、それをPDCAサイクルに乗せて、検証しながら存在価値を磨いていく。計画は作れば終わりではなく、検証し、見直していってこそ初めて価値が生まれる。さらに、「本学ならではの価値」を社会にどのように伝えていくのか、これも重要なポイントである。これまで大学は、「ちゃんとやっていれば社会に伝わっているはず」と考えていたように思う。しかし近年、大学に対して情報公開の要望が高まっている。これからは社会に対して、わかりやすい言葉を使って、積極的に情報を発信していくことが必要になる。仮に、現在検討されているような大学間連携や法人統合が進められたとしても、その大学ならではの、強い個性や特色があり、社会に浸透しているのであれば、その領域で引く手あまたになるであろう。当たり前だが、大学を構成するのは「人」である。だからこそ、組織的な課題にどう対応していくかが重要なポイントとなる。改革を推進する経営層はもちろん、意思決定のスピードや改革を進めていくためには、それを実践していく教員と職員の協働、未来への意思の共有が重要になる。トップダウンにすれば改革のスピードが早くなるという訳ではない。厳しいマーケット環境の中、変化に対応し、改革推進することができる組織体をどのように作っていくか、これは最重要課題である。本学としてのビジョンを実現するための、ガバナンス体制の構築、教職協働を進めるための育成(研修)の仕組み、マネジメント力の強化、教員採用方法の見直し等様々な改革が必要になるだろう。2030年に向けて、大きな社会変化が想定されている。その中で、“課題先進国”日本といわれるほど、様々な課題が世界に先駆けて日本で生じてくる。だからこそ、知の拠点としての大学に対する期待は、かつてないほど高まっていると感じている。その期待の一方で、社会からの要望も高まっており、改革の進まない大学に対する厳しい目が向けられているのも事実である。特集の5ページに記したが、ロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン教授は、著書『ワークシフト』の中で、2つの未来があるとしている。1つは、目の前の問題に行き当たりばったりで対処し、対応が後手に回る「漫然と迎える未来」、もう1つが将来を予測し、知恵を働かせて主体的に未来を選択する「主体的に築く未来」である。環境が大きく変化する中で、未来の学校法人のありたい姿をイメージし、そこに到達するための道筋を描く(デザインする)工程表が求められているのではないだろうか。Ⅳ.問われる「本学ならではの価値」改革を推進する組織づくりと社会への発信力の強化特集 2030年の高等教育編集長の視点
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