カレッジマネジメント211号
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67リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018を105の機関で受け入れている。統計を取り始めた2002年の3339人に対し、5.6倍の伸びを示しているが、2011年をピークに漸減傾向にある。出身国上位の内訳は、中国6663人、ミャンマー1610人、ラオス1372人、ベトナム1083人、カンボジア1018人となっており、中国とCLMV(Cambodia, Laos, Myanmar, Vietnam)諸国で占められていることに特色が見られる。CLMV諸国からの留学生受け入れを推進している背景には、東南アジア大陸部における教育ハブとしてのプレゼンスを高めること、高等教育をタイで受けることによりタイの基準に沿った技術移転を広められること、等が指摘できる(図3参照)。なお、AECの実現によって、ASEAN地域の人的資本が持つ全ての潜在能力を積極活用するため、高度なスキルを持った熟練労働者の移動を推進していくことが求められている。こうした移動を円滑に行うための枠組みとして、ASEANでは、8つのセクター(エンジニアリング、看護、建設、医療、歯科、観光、測量、及び会計監査)について相互承認枠組み協定(MRA: Mutual Recognition Arrangement)が結ばれている。現状ではMRAによる域内移動は進んでいるとは言い難いが、今後、高等教育はこうした分野について多くのプログラムを提供する必要がある。学生モビリティ促進に向けた施策の一つとして、タイでは2014年度より大学に新しい学年暦を導入し、8月開始となったが、高等学校との接続・気候等の点から旧学年暦に戻す動きがある。こうしたASEAN域内の交流プログラムに対し、ASEAN+3(日中韓)の一員として、日本は積極的に関与している。例えば、ASEAN統合に向けた学部向け学生交流プログラムとして2010年に開始されたAIMS(ASEAN International Mobility for Students)プログラムに、日本は2013年度より参加している。AIMSは、ブルネイ、インドネシア、日本、マレーシア、フィリピン、タイ、及びベトナムの7カ国の各大学が、大学間コンソーシアムを立ち上げ、1学期間(最長2学期)の交流プログラムを実施するものであり、各国政府はそれを支援する。さらに進んだ高等教育の国際化として、国際的な大学間連携が推進されており、「トランス・ナショナル」な学位プログラムも導入されている。2015年度現在、138のプログラムが提供されており、その内訳は、ジョイント・ディグリーが8(5.8%)、デュアル・ディグリーが77(55.8%)、ナショナル・ディグリーが51(タイの学位=39、外国の学位=12)(37.0%)、トリプル・ディグリーが2(1.4%)となっている。なお、ナショナル・ディグリーとは、1学期から1年間程度の海外留学がカリキュラムに組み込まれているが、卒業時には在籍大学の学位が授与されるプログラムである。カウンターパートの機関を国別に見ると、中国が29.0%、アメリカが15.2%、英国が10.1%、日本が8.7%、その他37.0%である。こうした、国家の枠を超えたプログラムの発展を促しているものに、「頭脳流出」(brain drain)から「頭脳循環」(brain circulation)へという考え方の転換がある。かつての、留学生を送り出してそれが人材の流出につながるという懸念よりも、こんにちでは優れた人材をいかに海外から誘致するのか、あるいは海外に出てしまう人材をいかに母国で活躍させるのかに重点を置くようになったと言える。以上見てきたように、AEC、少子高齢化、タイランド4.0といった長期的な社会変革の流れのなかで、タイの高等教育は質の転換という大きな課題に取り組んでいる。【主な参考文献】Oce of the Education Council (OEC), Ministry of Education (2017). Education in Thailand 2017. Bangkok: OEC.The Oce of the Higher Education Commission (OHEC), Ministry of Education (2017). Annual Report 2016 Office of the Higher Education Commission. Bangkok: OHEC.出典:2010年までの統計はOHEC, MOE (2011). 2010 International Students in Thai Higher Education Institutions. Bangkok: OHEC, p. 25. 2011年~2013年はOEC, MOE (2017). Education in Thailand 2017. Bangkok: OEC, p. 166.図3 タイにおける外国人留学生受け入れ数の推移05,00010,00015,00020,00025,0002013201220112010200920082007200620052004200320023,3394,1704,3345,6018,53411,02116,36119,05220,15520,30916,99918,814(年)
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