カレッジマネジメント211号
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70リクルート カレッジマネジメント211 / Jul. - Aug. 2018つきです。しかし、英語の授業を聞くだけではなく、ディスカッションして、プレゼンテーションして、という日々の中でどんどん成長し、終わったときには自信にあふれた顔に変わっています」(後藤学長)。薬学部の成果指標としてよく取り上げられるのは国家試験の合格率だが、京都薬科大学は違う。「入学時に、就職先は、病院、薬局、企業、3つのどれが希望かという調査をすると、病院が最も多いのですが、最終的には正三角形のようにきれいに3つに分かれます」。6年間でのこの変化を「教育力の表れ」と捉えている。「進路支援課は学生に対して、病院よりも企業が良いというような指導は一切、しません」。それにも拘わらず進路が図ったように「正三角形」になるのには、どれを選んでも先輩がいるため、情報が多い、安心感がある、新規開拓の困難がない、といった要素もあるのではないだろうか。「何よりも、科学をベースにした教育が一番大きいと思います。これが身についているからどこにでも行ける、ということの表れだと考えています。どれでも選べるから、自分に一番フィットするところを選んでいくということだと思います。18歳の学生に6年後、23、4になったときの人生を考えろというのは無理な話と思うのです。大学で学ぶ中で、自分で一番フィットするところが分かって、そこに行くのがベストですね。そ就職先は病院、薬局、企業の正三角形う考えると、出口は多様になる。正三角形の良さだと思います」(後藤学長)。幅広い人材育成が持ち味の京都薬科大学だが、後藤学長はさらに広いフィールドを考えている。「薬学の小ささが嫌いなのです。薬学の枠を破って出ていく人が出てきてほしい。例えば、薬局のチェーンに行って店長になるのもいいけれど、そのレベルでは面白くない。経営者になってほしい」。公務員なら行政に、企業なら研究開発方針にとどまらず全社の経営方針に関わる、そういう学生を出していきたいと言う。そうした思いも込め、「社会性・自立性をもった学生の育成にあたり、正課外における学生が活躍するフィールドを多様化、拡大化を目指す」狙いで近年始まったのが、学内ジョブプロジェクトだ。「オープンキャンパスで、学生に少しアルバイト代を払って誘導等、手伝ってもらった。その学生の動きを見たら、思った以上によくやっている。それがきっかけで、色々な学内の仕事を学生に任せていこうということになった」。実はこの学内ジョブは、学内アルバイト・学生企画を出すのも、集まった学生に業務の指示を行うのも、学内の各課だ。つまり、運営の中心は教員ではなく職員だ。「大学では教員が優位で、事務職員は下、という考え方はやめにして、学内ジョブだけでなく、色んなプログラムを教職協働で動かしていきたい」(後社会性・自律性を育む学内Job藤学長)。今後の方向性について後藤学長は、日本の大学全体の連携・統合の動きを踏まえ、「将来的に他大学と組むかどうかを考える前に、特異な単科大学の姿を作るということがまず大事。それがなかったら、単に飲み込まれるだけだと思います」と言う。そこでは、やはり基礎科学教育が鍵となる。まず取り組むのは、私立の単科大学なので医療機関を持たないという、科学教育を行う上での課題の解消だ。「今も長期実務実習はありますが、もっと密な医療機関の中で、4年間座学で学んだ基礎科学が医療現場で生きるという経験をさせたい。自前では病院を持たないですが、学術交流協定等でそういう場を作りたいと、検討を進めているところです」。科学教育の内容としては、「医学研究と肩を並べる薬学研究・教育」を掲げる。「医学部でも看護学部でも基礎科学はしていない。薬学部が唯一、基礎科学教育をしているのは大きな強みです。カリキュラム改正も今検討に入っています。その中で、1年次から4年次までの4年間で有機化学、物理化学等とバラバラに学んできたことがトータルで現場に生かせると分かるような統合化授業科目を作りたいと考えています」。統合化科目の実現にはまだ時間がかかるというが、他の大学にない、特異な姿を作るものとなりそうだ。他にない特異な単科大学を目指す(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)

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