カレッジマネジメント212号
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47リクルート カレッジマネジメント212 / Sep. - Oct. 2018学ばなければという気持ちになっていくという。さらに、APUの学生が地域農家に出向いて手伝いをする等地域との相互交流にも積極的に取り組んでおり、例えば、大分県臼杵市のフンドーキン醬油株式会社とムスリムを含むAPUの学生が協力してハラール醤油の開発が進んでいる。APUは、そのダイバーシティを地域に還元しているのである。その経済波及効果は年に200億円を超えると大分県が試算している。何もないところに大学を作って、世界中から学生を集めているからである。APUは、地域の活性化という観点でも大きく貢献しているのである。このことが実現できているのは、APUが価値を明確にして面白い場所を創っているためであると出口学長は話す。現在、地方の学生が東京や都市部に流出することが問題視されているが、APUは、別府の山の上にあっても(APUのキャンパスは、文字通り山の上にあり、キャンパスの徒歩圏内には何もない)、東京や大阪からも学生が集まっている。国内学生の志願者も増えており、前年比で志願者数は1.7倍に増加した(図3)。その背景には、APUが開学以来の建学の精神を貫き、ダイバーシティの豊かな「小さな地球・若者の国連」を作り出すとともに、そこで国際水準の教育が提供されていることによる。もちろん、APUの特徴であるダイバーシティを維持するためには、世界中で学生募集を行ったり、ほとんどの科目を日・英二言語で用意する等、コストもかかっている。国際認証を取得し、維持するためにも努力し続けることは必要である。他方、2000年の開学から18年が経つなかで、1期生らは30代半ばとまだ若いが、トンガの大臣やインドネシアの州副知事等が出ており、卒業生が世界中で活躍し始めている。同窓会も世界中にできており、34ある同窓会組織のうち25は海外の同窓会であり、APUは学生・卒業生にとって海外ネットワークの強い大学として成長しているという。例えば、国連で働いているフィリピン出身のAPUの卒業生は、休暇で母国に帰る前に、APUを訪ねて後輩に自分の活動を伝える等、母校に帰ることを楽しみにしている卒業生も多い。このことについて、出口学長は、「新しい大学に尖った人が来て、また、卒業後も様々な場所でみんな苦労もしているから、同窓会のつながりがとても強い。APUにはコアになる価値があることが求心力の原因」とその背景にある特徴を示す。そして、「APUはベンチャーのような大学として、さらに尖った大学を目標にしていく。尖って面白いことをやることで世界中の人たちから注目される。丸くなったら終わり。APUは一部の教育業界関係者に評価されて安住してしまっているという見方もある。一般にはまだAPUは知られていない。APUの課題は知名度が低いこと。普通の人への発信を大切にしていく」と話すのである。APUはコアになる価値を明確にしていると出口学長は強調する。それは、建学の理念であり、「APU2030ビジョン」にも示されている。明確なビジョンに基づいた結晶のような特徴を持つ大学が、ベンチャー起業の実践者である出口学長のもとで、さらにどのように尖っていくのか、「APU起業部」の成果やAPUが日本社会へのダイバーシティの浸透を図っていくのか、今後の展開が期待される。(白川優治 千葉大学国際教養学部准教授)特集 進学ブランド力調査 2018 プロだけではなく、普通の人への発信を強化01,0002,0003,0004,0005,0002018年度2017年度2016年度2015年度2014年度(人)4,5102,8502,8672,4854,112図3 国内学生志願者数推移
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