カレッジマネジメント212号
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482011年3月11日の東日本大震災は、東北地方を中心に日本社会に未曽有の災厄をもたらした。7年を経た今年3月時点でも避難者は7.3万人に上り、原発事故も依然終息していない。復興が着実に進みつつあるといっても、東北地方は未だ傷を負ったままだ。当然、3.11大震災は東北地方に所在する大学を大きく揺さぶり、自らの存在意義について改めて問い直しを迫るものだった。特に復興に向けて取り組む地域社会に大学がどう貢献できるのかが切実に問われた。宮城県仙台市や多賀城市にキャンパスを有する東北学院大学(以下、東北学院)にとっても、3.11は大きな転換点となった。自ら被災しながらも、3.11後、学際的に震災を考察し発信する「震災学」を立ち上げ、様々な公開講座の開催、「災害ボランティアステーション」等による実践を通して、復興という観点から地域への精力的な貢献を展開してきた。それは結果的に、東北学院が今後の方向性を構想する契機となり、そのための基盤を形成することにつながったようにみえる。東北学院は2016年、法人全体の中長期計画「TG Grand Vision 150」を公表し、これからの20年間の見取り図を示した。この中長期計画によってどんな未来を描き、大学をどう変えていこうとしているのか。東北学院の土樋(つちとい)キャンパスに松本宣郎学長を訪ね、お話をうかがった。東北学院の歴史は、1886(明治19)年、押川方義(初代院長)、米国ドイツ改革派のW.E.ホーイ(初代副院長)やD.B.シュネーダー(第二代院長)らによって、キリスト教伝道者育成を目的に創設された私塾「仙台神学校」に始まる。創設5年後の1891年には普通高等教育の提供を開始し、これを機に「東北学院」と改称され、現在に続く基礎が築かれた。東北学院の草創期を形成した3人の校祖によって定位された建学の精神が、宗教改革の「福音主義キリスト教」の信仰に基づく「個人の尊厳の重視と人格の完成」の教育だ。爾来、東北学院は、一般の教育・研究活動に加え、福音主義キリスト教に基づく宗教教育を重視し、正課内においては礼拝とキリスト教教育の実践を伝統としてきた。東北学院は戦後の学制改革によって「大学」に昇格し、その後の歩みは次の通りだ。専門学校時代の文科や商科の経験を継承する文経学部でスタートし、1960年代には工学部を含むいくつかの学部増設・改組に取り組んだ。その後も教養学部(1989年)、経営学部(2009年)の新設や学科改組を進める等、時代の変化や要請に応じた教育組織の適正化を図ってきた。2018年4月には、地元に多くの中高英語教員を輩出してきた実績も背景に文学部に教育学科が設置され、小学校における教科としての英語導入を見据えた教員養成課程の整備が進んでいる。リクルート カレッジマネジメント212 / Sep. - Oct. 2018東日本大震災を経て戦略的に推進する地域貢献型の大学づくり松本宣郎 学長東北学院大学C A S E3東北地方を代表する私立総合大学への歩み

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