カレッジマネジメント212号
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49こうして東北学院は2018年現在、文学部、経済学部、経営学部、法学部、工学部、教養学部の6学部16学科、学生数約1万1000名余りを擁する東北地方唯一の私立総合大学へと成長を遂げた。こうした沿革が示す通り、東北学院は長い歴史を通して多くの卒業生を輩出、東北地方では名前が知られるようになり、学生集めにもさほど苦労はなかった。「恵まれた大学」だったと松本学長は述べる。なるほど、メインの土樋キャンパスは、JR仙台駅や地下鉄五橋(いつつばし)駅からも程近い繁華な仙台市中心部に立地し、国の重要文化財に指定されたデフォレスト館(旧宣教師館)をはじめ複数の登録有形文化財を有する等、華やかさと落ち着きが共存する学習環境となっている。さらに2016年3月には創立130周年を記念して「ホーイ記念館」が竣工し、ラーニングコモンズやカフェを併設した地域開放型の学習施設も仲間入りした。そんな歴史に裏打ちされた多くの好条件は、東北学院にとって明らかに強みだ。東北地方における私学の雄と呼べる大学へと成長し得た要因もここにある。しかし裏を返せば、自らを顧みて新たな打ち手を考えていこうとする切迫した気運やインセンティブを欠く環境にあったとみることもできる。松本学長自身、東北学院は「残念ながら、鋭さや尖ったところのない大学だった」と振り返る。変化の激しい競争的環境下、強みは容易に弱みに転じかねないし、20世紀での成功経験が21世紀に通用するとも限らない。事実、2000年代以降、東北学院を取り巻く高等教育環境が大きく変化した。国立大学法人化が実現し、先進的な私立大学では中長期計画を策定する等、企業的大学運営を志向する動きが見られるようになった。それは、東北学院に自らの立ち位置の見直しを迫るものであり、次第に危機感が高まったという。確かに、図表1に見る通り、震災後も志願倍率は4〜5倍の間で安定的に推移していて、志願者数は若干ながらも増加傾向にさえある。これだけ見れば依然安泰と言えなくもない。しかし、「2018年問題」に象徴されるように少子化が深刻化していく時代、なかでも東北地方は他地域に先駆けて人口減少が進む地域に当たる。2017年度入学者(2668名)をみると、東北地方出身者が全体の97%、宮城県出身者だけで64%を占める。将来の人口動態を考えれば安閑としていられる状況にはない。そう考えたとき、生き残りや個性化・差別化に向けた方略の必要性が認識された。2014年、中長期計画策定に向けた検討が動き始めた。およそ2年の検討期間を経て完成したのがTG Grand Vision 150だ。同ビジョンが目指すのは、「伝統の中から新しい東北学院を創造すること」、つまり、東北学院が培ってきた伝統を保持しつつも新しいTGブランドを確立し、キリスト教に基づく人格教育や教養教育を施し、専門性を身につけた人材を地域に輩出していくこと、松本学長はそう語る。2016年3月、東北学院中長期計画であるTG Grand Vision 150(以下、TGGV150)が理事会で承認された。そもそもTGGVの検討・策定は2014年度から開始されリクルート カレッジマネジメント212 / Sep. - Oct. 2018特集 進学ブランド力調査 2018 図表1 志願者・入学者の推移(2012〜2018年度)人口減少に向けた危機感が背景にTG Grand Vision 150の策定と実施14,0006.05.04.03.02.01.0012,00010,0008,0006,0004,0002,00002012年2013年2014年2015年2016年2017年2018年(人)(倍)志願者数入学定員入学者数志願倍率

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