カレッジマネジメント212号
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55──また、地域における大学の存在の重要性を考えても、システムとしての統合や連携がどのような位置づけになるのかが注目されています。この将来構想の議論を始めたとき、私自身が最重要テーマと考えていたのは「地域から大学を消さない」ということ。地域を支えるためには、必要な高等教育を受けた人材の供給は不可欠。そのための一つの方策として、国立大学協会の中では、全ての国立大学で科目をナンバリングしてどこでも授業を受けられるようにし、いくつかの地域で学びながら、自分に合う場所を探すという案を話し合っています。こういった学生の流動性を上げる方法は、留学生にはもっと効果がある。外国から来る学生は、東京や京都のことは知っていても、他の地方都市やその地域ならではの学問や文化については詳しく知りません。留学生が地方で産業と結びついた学問を学び、地元の企業で力を発揮する。そういったことが可能となるよう、学生の流動性を高める教育システムに変えていくべきでしょう。──そのとき、地方自治体の関与や財政的な支援がなければ実現できないという声もあります。そのために、今回の方策として示している「地域連携プラットフォーム(仮称)」は必置にすべきだと考えています。都道府県等の単位で関係者が協議して将来像を明確化する。方向性が合致する大学はコミットし、そうでないなら独自の路線で学校運営を行う。いずれにせよ、「何を目指す高等教育機関なのか」が地域から明確に見えればよいのです。また、国に対しては、財政的支援が難しくても、社会資本の導入が進むような規制緩和や法律改正といった制度面からの支援を望みたい。大学のキャンパス内に作った研究教育用の民営の施設の固定資産税を優遇する、研究所での特許の扱いを変えるといったことはあくまで一例ですが、社会から「大学と組むことは得である」という考え方を根付かせたいと思います。「何を目指す高等教育機関なのか」を社会に明確に──議論の方向性を捉えて、個々の大学にとっては、どのような対応を考えていくべきでしょうか。研究においては異分野との協業。一つの分野に集中するだけでなく、個々の大学が得意分野を軸にしながらも何を掛け合わせれば効果が出るかを考えるべきでしょう。また、教育においては、国内外での学生の流動性を高めることだと思います。学生自身が力をつけることはもちろん、優秀な学生を送り出すことが自分の大学の力を外に宣伝することにつながります。さらには、企業との共同研究に取り組む組織体制の構築も必要だと思います。共同研究先の企業の方は組織単位で対応をしていますが、大学側は依然として個々の教員による対応に留まっていてブレークスルーが起こりづらい。異なる分野の教員が一つのプロジェクトに参画できるよう、機動的な組織体制に変革していくべきでしょう。──新しいチャレンジとして、社会人の受け入れやブランチ等海外戦略等の対応はどうすべきでしょうか。社会のニーズを捉えたリカレント教育の中身はまだ考え切れていないと思います。デジタルテクノロジーやデジタルサイエンス、世界の企業とつながるMBA、企業法学等、社会のニーズを見極めれば機会はたくさんあると思います。また海外展開においては、フェイストゥフェイスで教えることの価値を打ち立てないと大学の存亡に関わるという話が出ているなか、分校の価値が上がっています。海外の高等教育機関が自国の外でも激しい人材獲得競争をしているなか、日本だけ遅れている。今後の新しい分野を開拓するような優秀な学生を増やす国家戦略を打ち出すべきだと思います。──部会長として読者へのメッセージをお願いします。本当の意味での国際化した社会では、大学本体の魅力で勝負する時代に入る。大学の個性や魅力を発信できないなら退場せざるを得ないのです。国公私立の立場を越えて、共にこれからの世界を支える人材を育てる高等教育機関であるという矜持を持ち、実践すること。これが重要でしょう。リクルート カレッジマネジメント212 / Sep. - Oct. 2018(文/金剛寺千鶴子 撮影/平山 諭)2040年に向けた将来構想の行方 Vol.1

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