カレッジマネジメント212号
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642017年5月の文在寅大統領の就任から早くも1年以上が経過した。その間、平昌オリンピックや南北首脳会談と世界的に注目を浴びている韓国であるが、現政権下ではどのような高等教育政策が進行しているのであろうか。韓国では大統領の任期である5年間に照準をあわせて政策が打ち出され、その下で各種施策が実施されることが多い。前大統領の罷免により、5年を待たずして次の政権がスタートしたが、新大統領就任の2カ月後には「100大政策課題」が発表された。このうち高等教育に関する課題としては、大学生の授業料や住居費等の経済的負担緩和、大学入試制度の改善、大学進学時の社会的弱者への配慮、学閥・学歴主義の撤廃、大学の自律性拡大、専門大学の質的向上、生涯学習活性化、産学連携活性化、大学ガバナンスの改善といった内容が盛り込まれている。韓国の高等教育機関数は大学189校、専門大学(2年制または3年制の短期大学)138校を含む430校(2017年)で、そのうち私立の占める割合が8割と高い。高等教育進学率はピーク時よりやや下がってきたものの68.9%(2017年)と高く、2015年には30歳以上の国民に占める大卒人口(1260万人)が高卒人口(1207万人)を逆転した。しかし大卒者向けの職は限られており、求人とのミスマッチも生じていること等から若年層の就職難が社会問題となっている。2017年の青年(15-29歳)失業率は9.9%と2000年以降最悪と韓国の高等教育を取り巻く環境なった。これは、アジア通貨危機の際に次ぐレベルといわれており、文政権の選挙公約の1つである若年層の就職対策は未だ功を奏していない。対策として大学生の海外就職が「K-move」の名の下で推進されており、韓国の大学で3年間、日本の大学で1年間学んだ後に日本で就職させる「3+1」というプロジェクトも進められている。韓国では1996年に大学設立認可基準が大綱化されたこと(準則主義※1の導入)で大学数が増加した。一方、少子化が進み(出生率1.05、2017年)、18歳人口の減少に伴って地方の大学をはじめとする大学の定員未充足が問題となっており、これまでも様々な大学改革と定員削減が行われてきた。前政権で始まった「大学構造改革評価」では、定員削減や廃校処分を含む厳しい対応が取られてきた。2000年から2017年までに、廃止命令を受けた大学は9校(大学7校、専門大学2校)、自主廃校した大学は3校に上る。文政権ではまず、選挙公約に掲げた大学入学金の廃止が2017年夏より進められ、大学関係者に波乱を巻き起こした。物価上昇率に連動した「大学授業料値上げ上限制※2」や関連の規則によって、授業料値上げが実質的に凍結されているなかでのことでもあり、大学側の反発は少なくなかったが、政府による大学支援予算拡大の約束により、2022年までの入学金廃止が2018年に決定した。韓国の場合、これまで私立大学を対象とした政府による財政的支援は競争的資金事業のみであった。しかし、文政権では、既存の競争的資金事業の一部を転換して「大学革新支援」と称する一般財政支援(経常費補助)が導入されることになった点が注目される。リクルート カレッジマネジメント212 / Sep. - Oct. 2018韓国の高等教育改革と留学生政策塚田 亜弥子東京大学 教育学研究科 博士課程大学院生太田 浩一橋大学 国際教育センター 教授成均館大学政権交代と高等教育の課題9

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