カレッジマネジメント212号
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74大学は、組織や制度を変え続けていなければ、国や社会から評価されないのだろうか。都内の大規模私立大学での講演で一人の学部長から出された質問である。国公私を問わずこの種の疑問を投げかけられることは多い。矢継ぎ早に示される政策に、高等教育の現場は翻弄され、疲弊し、学生や学問に向き合うからこそ得られる瑞々しい感性や活力を失いつつある。文部科学省科学技術・学術政策研究所が行った「科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP定点調査2017)」においても、大学・公的研究機関の研究環境の状況は著しく不十分との認識が示されている。特に、研究者が大学改革や中期計画等の策定、外部資金の獲得等に時間を割かれ、まとまった研究時間を確保できない実態が明らかになっている。東京大学東洋文化研究所の佐藤仁教授はその著書『教えてみた「米国トップ校」』(角川書店,2017)の中で、「管理業務の過多に伴う教員の研究・教育時間の劣化傾向は深刻」であること、「さまざまな「改革」が、足元の学生や教員よりも文科省の方を向いて行われている傾向が強い」こと等を指摘している。教員のみならず職員からも、年々業務が増えて、新たなことに取り組む余裕が失われつつあるとの声を聞くことが多い。改革が十分かと問われれば、大学は依然として多くの課題を抱えている。改革への取り組みを遥かに上回る速度で社会が急速に変化している状況も理解できるが、次々に政策を示し、改革に駆り立てることで、本当に教育の質が向上し、研究力が高まるのだろうか。政策を示す側も改革の当事者である大学も、立ち止まって冷静に問い直す必要がある。一方で、一旦示された政策は、それが妥当であるか否かに関わりなく、法令となり、予算化され、大学に改革の実行を促す。理解も不十分なまま、急き立てられ、形を取り繕うことに終始するよりも、学内を動かす好機と捉え、改革を加速させたり、政策を先取りしたりするくらいの強かさも必要である。成果物としての答申や提言だけでなく、審議の過程で示される論点、配布される資料、議事録等を通して、気づかされることも多い。個々の大学が、改革の方向性や将来的な在り方を検討する上で、これらの情報は極めて有益である。問題は、情報量があまりに膨大であり、取捨選択が難しい点であろう。異なる会議で、同じような議論が行われていたり、一つの会議で同種の資料が繰り返し配られていたりする。答申や提言も、多くの場合、本文に加え、概要版や参考資料がウェブ上にアップされている。概要版で全体政策議論を通して気づかされることも多い大学を強くする「大学経営改革」政策を見据えつつ現場主導の改革を──大学は高等教育政策にどう向き合うか吉武博通 公立大学法人首都大学東京 理事リクルート カレッジマネジメント212 / Sep. - Oct. 201878政策に翻弄される高等教育の現場

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