カレッジマネジメント212号
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75像は把握できるが、本文で章立てを確認するとともに、重要な部分は丁寧に読み込まないと正しい理解が得られない場合もある。大学ごとに、これらの政策をウォッチする教員と職員(例えば企画担当副学長と企画担当職員)を特定し、節目ごとに報告させる等、学内共有の仕組みを設けるのも一つの方法である。継続的にフォローすることで、政策の大きな流れや勘所も摑め、情報の取捨選択も容易になる。大切なのは、政策を鵜呑みにするのではなく、その目的や本質を理解し、自校の課題と結びつけることで、真に意味のある改革に繋げる姿勢である。現在そして将来の学生や社会にとって意味のある変化が起きない限り、政策も改革も無価値に等しい。政策やその形成過程を理解するためには、政府に設置される会議の審議状況、与党の動向(例えば、2018年5月の自由民主党「教育再生実行本部 第十次提言」等)、経済界の提言等を押さえておく必要がある。政府に設置される会議では、中央教育審議会や調査研究者協力会議等文部科学省に置かれる会議だけでなく、内閣に置かれる本部・会議体、財務省の財政制度等審議会等でも、高等教育や大学を巡る議論が活発に行われている。内閣に置かれる本部・会議体のうち、経済財政諮問会議と総合科学技術・イノベーション会議は内閣府設置法に基づく常設の会議だが、閣議決定により日本経済再生本部、教育再生実行会議、まち・ひと・しごと創生本部等が置かれている。また、内閣総理大臣決裁により一億総活躍国民会議、働き方改革実現会議、人生100年時代構想会議が置かれ、それぞれが計画や基本構想をまとめて終了。一億総活躍と人生100年時代についてはフォローアップ会合に引き継がれている。これらの本部・会議体では、それぞれの文脈の中で大学に関するテーマが議論され、高等教育政策に影響を与えている。その要点を簡潔に表すとすれば、経済成長、それを支える人づくりとイノベーション、地方創生における大学経済成長への貢献期待と改革加速に向けた督促への期待であり、改革の足取りが鈍い大学への強い督促である。2018年6月15日閣議決定の「経済財政運営と改革の基本方針2018」には、これらの議論が集約されている。高等教育に関係する施策としては、第2章の1「人づくり革命の実現と拡大」の中で、人材への投資として、高等教育の無償化、大学改革、リカレント教育が挙げられている。無償化の具体的措置では、無償化の対象範囲、支援対象者の要件、支援措置の対象となる大学等の要件、中間所得層に対する支援が示されている。このうち大学等の要件として、実務経験のある教員(フルタイム勤務でない者を含む)が卒業に必要な単位数の1割以上の単位に係る授業科目を担当するものとして配置されていることを挙げている。また、大学改革については、各大学の役割・機能の明確化、大学教育の質の向上、学生が身に付けた能力・付加価値の見える化、経営力の強化、大学の連携・統合等、多面的な指摘がなされている。特に、連携・統合では、国立大学に関する一法人複数大学制の導入、国公私立の枠を超えた大学の連携を可能とする「大学等連携推進法人(仮称)」の創設が提案されている。同日に閣議決定された「統合イノベーション戦略」では、第3章の(1)「大学改革等によるイノベーション・エコシステムの創出」において、「イノベーションを巡る世界的競争が激化する中、我が国の大学改革や研究力強化策は相対的に立ち遅れつつあるとの指摘がなされている」とした上で、経営環境の改善、人材流動性の向上・若手の活躍機会創出、研究生産性の向上、ボーダレスな挑戦の4点について踏み込んだ方針を示している。政策形成の主たる場が各省庁から官邸や内閣府に移り、民間議員や有識者委員を含む種々の会議で政策の骨格が作られる現在の形は、省庁縦割りの弊害解消という利点がある一方で、様々な問題も孕んでいる。会議の林立と頻繁な看板の掛け替えは、政策形成過程を複雑にし、分かりにくくしている。当該分野に精通してい会議の林立と看板の掛け替えの政策形成リクルート カレッジマネジメント212 / Sep. - Oct. 2018
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